研究課題/領域番号 |
20K14578
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
纐纈 佑衣 名古屋大学, 環境学研究科, 講師 (20726385)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | かんらん石 / 顕微赤外分光法 (FT-IR) / 電子線後方散乱回折 (EBSD) / キンバーライト |
研究実績の概要 |
本研究は,上部マントルの変形において重要な要素でありながら,測定が困難であるかんらん石中の含水量を,顕微赤外分光法と電子線後方散乱回折法を組合せて定量化する新たな手法を開発し,天然のかんらん岩の含水量と結晶方位ファブリックパターンの関連性を明らかにすることが目的である。R2年度は,含水量が比較的多いとされるキンバーライト起源のかんらん岩捕獲岩試料を用いて,かんらん石中の含水量マップの作成に取り組んだ。粗粒なかんらん石を含む試料を選定し,両面研磨薄片を作成して,20-40μmステップで赤外分光マッピングを行った。そして,Matveev & Stachel (2007)で提案されている含水量計算式をベースにして,ミリオーダーの領域におけるかんらん石粒子内の含水量を可視化する試みを行った。初めに,赤外分光法を用いた含水量の定量化において重要な試料の厚さ測定を求めるため,Matveev & Stachel (2007)で提案されている2nd order Si-O overtone領域のスペクトルを用いた計算式を検証した。その結果,ノギスや光学顕微鏡を用いた厚さ測定の結果と調和的であることが確認された。膨大なマッピングデータは,プログラミングソフトMatlabを用いたスクリプトを作成し,1点ごとのスペクトル解析をおこなった。作成した含水量マップを検証した結果,かんらん石粒子内の含水量の平均値は,試料内でほぼ均質であるのに対し,かんらん石粒子中の含水量はまだら模様の不均質な分布をしていることが明らかになった。また,ソフトプラズマエッジング装置を導入して,赤外分光分析用に作成した両面研磨薄片の表面を処理することにより,電子線後方散乱回折分析が可能であることを明らかにした。かんらん石の含水量の平均値と結晶方位を対比した結果,001軸方向の含水量が低くなる傾向が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
R2年度に目標としていたかんらん石中の含水量マップの作成は計画通り実施することができた。加えて,ソフトプラズマエッジング装置を導入することで,赤外分光マッピングを行った両面研磨薄片に対して,EBSD分析が可能となり,含水量と結晶方位の直接対比が可能になった。これは,世界初の成果であり,今後様々な岩石へ応用も期待される。
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今後の研究の推進方策 |
R2年度はかんらん石の含水量のマップを作成することには成功したが,含水鉱物ピークのコンタミネーションやベースライン補正の必要など,スペクトル解析においていくつかの改良の余地がある。今後は,マップデータのクオリティを上げるため,MATLABを用いたスクリプトの改良を行う。また,ソフトプラズマエッジング装置を用いた両面研磨薄片のEBSD分析に成功したが,含水量と結晶方位の対比を検証するのに十分なデータが集まっていないため,引き続きデータを収集していく予定である。加えて,キンバーライト試料だけでなく,様々なテクトニクスセッティング下で変形した天然のかんらん岩試料を対象として,特に含水量の少ない試料の分析条件及びデータ解析方法の検証を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画としては,試料の厚さを計測するための膜厚計を購入する予定であったが,先行研究で提案されている赤外分光スペクトルを用いた厚さの算出方法はかなり精度が高いことが示されたため,膜厚計の購入を見送った。代わりに,EBSD分析のための前処理としてプラズマエッジング装置を購入し,赤外分光分析とEBSD分析を同じ試料で行う事に成功した。 R2年度はコロナウイルスの影響で,多くの学会が中止や遠隔での実施となったため,旅費は使用しなかった。代わりに,オンラインで参加の場合は,"その他"の項目より参加費などの支払いをおこなった。
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