研究課題/領域番号 |
20K14593
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
遠藤 美朗 東京工業大学, 地球生命研究所, 研究員 (30848338)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 硫黄同位体 / 二酸化硫黄 / 太古代 / 非質量依存分別 / 大気モデル / 光化学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、二酸化硫黄SO2光解離反応における同位体異常の温度依存性に着目し、δ34Sを含む4 種硫黄同位体すべてを用いて太古代の大気組成を明らかにすることである。具体的には(a)低温低圧条件でのSO2光解離反応の同位体分別を明らかにする、(b)数値計算により任意の大気組成における同位体分別を調べ地質記録と比較し古大気組成を推定する。 2020年度は、当初に計画した通り低温光化学実験と大気化学計算の立ち上げを行った。実験に関しては-70度まで冷却可能な冷凍機を購入し、反応容器(ガスセル)、重水素ランプ、真空ラインを接続した。ガスセルを断熱し、反応容器に設置した温度計で約-45度まで冷却可能となった。続いて試薬ガス(SO2+CO)をガスセルに導入し紫外線を照射した。室温での実験と同様にOCSガスが生成し、硫黄同位体比分析に十分な量のOCSを確保できることがわかった。したがって、室温から-45度まで温度を系統的に変化させ光解離実験の硫黄同位体分別を調べることが可能になった。 大気化学計算に関しては、計算用の高性能PCを購入し過去に英国で行った研究と同様の環境を構築した。同位体ごとのSO2吸収スペクトルが同位体分別を生じるモデルの計算コードの改良を進め、SO2自身の吸収により紫外線スペクトルが変化し生じる同位体分別(自己遮蔽と呼ばれる)を初めて計算できるようになった。SO2の火山放出量を現在の1倍から1000倍までの条件で硫黄同位体分別を計算した。SO2が多く自己遮蔽が起きる場合、光解離生成物の同位体異常が大きくなるだけでなく、残留SO2の同位体異常Δ33Sの負の値が小さくなる興味深い結果が得られた。地質記録に見られるΔ33Sの正負の非対称性について、大気中のSO2/H2S比の変動を反映するとした先行研究とは異なる解釈が可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
パンデミックにより社会の混乱と出勤の制限のため、高額な備品(冷凍機およびPC)の納品および実験の作業が当初の予定よりも大幅に(4ヶ月程度)遅れた。先にPCが納品されたため、実験の代わりに計算を進めた。冷凍機が納品された晩秋から実験を再開し、また実験の代わりに理論的な考察を進めたことにより実験数を減らすことを試みた。また、過去の室温の実験で立ち上げたOCSを使う手法が、今回の低温の実験でもほとんど変更なく流用できるという幸運に恵まれ遅れを取り戻しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では大気化学計算を進めるために英国への中期の出張を予定していたが、情勢からおそらくは不可能と判断し、実験を優先的に進める。 実験について、2020年度末から同位体比の結果が出始め解析と考察を始めている。現状の予察的なデータは同位体異常の大きさ(Δ33S値)は室温での結果よりも大幅に大きくなった。しかし、太古代の地質記録の再現に肝心な同位体異常の傾き(δ34S/Δ33S比)の温度依存は想定外に小さいようである。そのため太古代の地質記録の再現は苦しいかもしれない。したがって、実験条件を広げることを検討中である。例えば、現在の重水素ランプ(<200 nmが強い)とは別の光源(キセノンランプ、>200 nmが強い)も使い波長依存性を加味した温度依存性を調べる。また、断熱を工夫しさらに低温の-60度程度を目指す。大気化学計算について、定常状態だけでなく時間発展の計算に取り組む。例えば噴火のような気体濃度が時間変化する状況を計算可能になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗する試薬を追加購する入予定であったが、見込んだほど消耗しなかったため次年度使用となった。2021年度に購入する予定である。
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