研究実績の概要 |
2021年度は、室温から-45°Cまで温度を系統的に変化させ光化学実験を行い、低温低圧におけるSO2光解離反応の同位体分別係数を初めて得た。結果は明らかな温度依存を示し、SO2分圧が一定の条件においてδ34S、Δ33S、Δ36S値の大きさが低温ほど大きくなった(-45°Cでは室温の約4倍)。一方でΔ33S/δ34S比およびΔ36S/Δ33S比は温度にほとんど依存しなかった(Δ33S/δ34S~+0.12, Δ36S/Δ33S~-3.1)。低温ほど分別係数を大きい傾向は、SO2吸収スペクトルの温度依存性に基づく予想と定性的に一致する。すなわち、温度が下がると、吸収ピークの波長における吸収断面積が大きくなり、最も同位体存在度が多い32SO2が紫外線を吸収し32SO2のみ光解離反応が遅くなるために起きる同位体異常(自己遮蔽効果)が効果的に働き分別係数が大きくなった可能性がある。 実験結果を太古代の硫黄同位体比と比較すると、温度を下げてもΔ33S/δ34S比(~+0.9)には近づかず、本研究が行った低温低圧におけるSO2光解離では太古代の4種硫黄同位体比の完全な再現はできないことがわかった。一方で、過去2,600年の硫酸エアロゾルから観測されたδ34S, Δ33S値については、OHラジカルによるSO2の酸化(SO2 + OH → HSO3, HSO3 + O2 → SO3 + HO2, SO3 + H2O → H2SO4)とSO2光解離を経由した硫酸生成(SO2 + hν → SO + O, SO + O2 + M → SO3 + M, SO3 + H2O → H2SO4)の2つの硫酸生成経路の混合モデルにより説明できる可能性が高いことがわかった。以上の内容をまとめた論文を執筆し、国際誌に投稿した。
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