研究課題/領域番号 |
20K14598
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
古川 龍太郎 早稲田大学, 人間科学学術院, 助教 (30845053)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ヒスチジルtRNA合成酵素 / グリシルtRNA合成酵素 / 祖先配列 |
研究実績の概要 |
今年度は、ヒスチジルtRNA合成酵素(HisRS)とグリシルtRNA合成酵素(GlyRS)の共通祖先に当たる祖先ARS (AncHG)のアミノ酸配列から基質アミノ酸との結合に重要な部位を選出し、その部位に当たるアミノ酸を現存する好熱菌であるThermus thermophilusが持つHisRSおよびGlyRSに導入し、様々なアミノ酸に対するアミノアシル化活性を測定することで、祖先ARS(AncHG)のアミノ酸特異性を調べることにした。まず、Thermus thermophilusが持つHisRSおよびGlyRS(以下TTHis、TTGlyと略す)を大腸菌内で発現させた。次に、全生物共通祖先が持っていたHisRS、GlyRSの基質アミノ酸との結合に重要な部位を選出し、その部位に当たるアミノ酸をTTHis、TTGlyに導入したComH、ComGを設計し、大腸菌内で発現させた。TTHis、TTGly、ComH、ComGは可溶性のタンパク質として得られ、70℃の熱処理にも耐える安定性を有していた。続いて、AncHGの基質アミノ酸との結合に重要な部位を選出し、TTHis、TTGlyに導入したTTHisancHG、TTGlyancHGを設計し、大腸菌内で発現を行った。TTHisancHG、TTGlyancHGは発現していたが、不溶性であった。祖先配列推定に問題があるかどうかを確かめるために、全生物共通祖先が持っていたと推定されるHisRS、GlyRSの遺伝子を合成し、発現を行った。全生物共通祖先HisRSと全生物共通祖先GlyRSは発現し、可溶性であったが、熱安定性が失われていた。このことから、祖先配列推定が正確に行えていないと考えられ、配列アラインメントから見直す必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、AncHG以外に、セリルtRNA合成酵素(SerRS)とプロリルtRNA合成酵素(ProRS)の共通祖先に当たる祖先ARS(AncSP)、さらにSerRS、ProRS、トレオニルtRNA合成酵素の共通祖先に当たる祖先ARS(AncSPT)の活性部位もThermus thermophilusが持つSerRS、ProRS、ThrRSに導入し、アミノ酸特異性を調べることになっていた。しかし、TTHisとTTGlyにAncHGの祖先アミノ酸を導入したときに不溶性となったことから、Thermus thermophilusが持つタンパク質は変異に対する柔軟性があまりないと考えた。そこで、別の生物のタンパク質に祖先アミノ酸を導入することが必要となり、その検討を行っているため、SerRS、ProRS、ThrRSへの取り掛かりに遅れが出ている。また祖先配列自体も不確定性を多分に含んでいると考えられるため、検討の余地があり、時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は再度祖先配列推定をやり直し、全生物共通祖先HisRSと全生物共通祖先GlyRSの復元を試みていく。AncHGの活性部位にあたる残基を大腸菌のHisRSおよび枯草菌のGlyRSに導入し、大腸菌内で発現させ、変異体のみ精製し、様々なアミノ酸に対する特異性を調べる。またAncSP、AncSPTの活性部位も大腸菌のSerRS、ProRS、ThrRSに導入し、アミノ酸特異性を調べる。最終的にHisRS、GlyRS、SerRS、ProRS、ThrRSの共通祖先であるAncHGSPTの活性部位を大腸菌のHisRS、SerRS、ProRS、ThrRS、枯草菌のGlyRSに導入し、アミノ酸特異性を調べることで、全生物共通以前に存在したと推定される祖先ARSがどのようなアミノ酸をタンパク質合成に用いていたのか明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、AncHG以外に、セリルtRNA合成酵素(SerRS)とプロリルtRNA合成酵素(ProRS)の共通祖先に当たる祖先ARS(AncSP)、さらにSerRS、ProRS、トレオニルtRNA合成酵素の共通祖先に当たる祖先ARS(AncSPT)の活性部位もThermus thermophilusが持つSerRS、ProRS、ThrRSに導入し、アミノ酸特異性を調べることになっていた。しかし、TTHisとTTGlyにAncHGの祖先アミノ酸を導入したときに不溶性となったことから、Thermus thermophilusが持つタンパク質は変異に対する柔軟性があまりないと考えた。そこで、別の生物のタンパク質に祖先アミノ酸を導入することが必要となり、その検討を行う中でSerRS、ProRS、ThrRSの遺伝子を合成する機会が得られず、未使用分が増えた。次年度には新しく設計したHisRSとGlyRSに加えて、SerRS、ProRS、ThrRSの遺伝子も合成するため、当初の計画通り使用できると考えている。
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