造礁性サンゴの炭酸塩カルシウム(CaCO3)骨格中に含まれる微量元素量や安定同位体比は骨格形成時の環境によって変化する。そのため古環境復元のためのプロキシーとして用いられている。しかし、プロキシーの評価として重要なサンゴの石灰化機構はわかっていない。そこで、本研究では石灰化過程の解明を目指し、これまで技術的に困難とされてきた骨格形成場である石灰化母液の直接観察手法確立を行う。 試料取り扱いの観点から、試料として造礁サンゴの稚ポリプを用いて、サンゴ生体部と骨格部の同時観察を行う。骨格形成場を観察するため、試料は切断する必要がある。軟組織である生体部と硬組織である骨格部の両組織を切断時にも保持するために、生体部と骨格部を同様の硬さにしなければならない。 同時観察を行うために、Cryo-SEMにてサンゴ稚ポリプの切断面観察を試みた。実験手法は確立できたが、二次元の観察結果の解釈にあたり造礁性サンゴの三次元的構造の理解が不足しており、現状すぐには解決できない課題が明らかになった。 造礁性サンゴの幼生を人工海水で飼育し、褐虫藻を獲得させ、幼生を定着させた。定着後も人工光下で飼育を続け、稚ポリプの体内で褐虫藻が十分に増殖したことを確認した。褐虫藻との共存が認められる稚ポリプの軟体部を樹脂置換し、切断、研磨した。軟体部が研磨中に保持されるような樹脂置換方法と研磨法を確立した。この方法によって、光学顕微鏡下で造礁性サンゴ稚ポリプの断面を観察し、触手を含む軟体部に共生している褐虫藻と骨格の位置関係が明瞭に観察できるようになった。
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