研究課題/領域番号 |
20K14609
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
武末 翔吾 京都工芸繊維大学, 機械工学系, 助教 (00846058)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 表面改質 / 微粒子ピーニング / 高周波誘導加熱 / 窒化 / チタン / 摩擦摩耗 |
研究実績の概要 |
本年度は,前年度の研究で得られたチタン移着層を高硬さ化するため,粒子投射後の加熱保持がチタン移着層の特性に及ぼす影響について検討を加えた.さらに,創成した被膜の摩擦摩耗特性を明らかにした. その結果,1100℃に加熱されたSCM415鋼に対して10秒間チタン粒子を投射しチタン移着層を創成した後に1100℃で120秒間加熱保持を施すことにより,移着したチタンに処理雰囲気中の窒素が拡散し,高硬さを有する被膜が創成されることが明らかになった. 創成された被膜の耐摩耗性を検討するため,ボールオンディスク式の摩擦摩耗試験を室温と高温(200℃)で行った.その結果,室温では被膜創成による顕著な耐摩耗性の向上は認められなかったが,200℃の試験環境ではSCM415鋼基材と比較して,被膜の耐摩耗性が優れることが明らかになった.これは高い試験温度と摩擦熱に起因して,摩擦摩耗試験中に大気中の酸素がチタンに拡散し,固溶強化したためと考えられる. さらに,投射粒子としてアルミニウムを用いた場合も,同様に表面改質層の創成が実現できることが明らかになった.具体的には,高周波誘導により加熱されたステンレス鋼に対してアルミニウムを含有する粒子を投射すると,被処理面にアルミニウムが移着し,移着したアルミニウムに処理雰囲気中の窒素が拡散することにより窒化アルミニウムが形成された.さらに,基材成分のFeと投射粒子成分のAlが反応し,Fe-Al金属間化合物も形成され,これらにより高硬さを有する表面改質層が形成され,ステンレス鋼の耐摩耗性が向上することが明らかになった. これらの結果から,高周波誘導加熱と微粒子ピーニングを組合わせた処理を施すことにより,様々な金属材料の表面に高硬さを有する改質層が創成され,耐摩耗性を向上できる可能性が示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り,高周波誘導加熱と微粒子ピーニングを組合わせた表面改質を施し,投射粒子の移着層への窒素拡散を利用することにより,低合金鋼SCM415鋼の表面に高硬さを有するチタンの被膜を創成できる条件を明らかにし,その耐摩耗性の評価を完了した.加えて,耐食性が低い低合金鋼の表面をチタンで被覆することにより,耐食性も向上できることを示した. また,本研究で提案した表面改質法は,基材の種類を選ばずに表面に高硬さの被膜を創成可能できると考えたため,オーステナイト系ステンレス鋼SUS304に対しても処理を施し,低合金鋼の場合と同様に表面に高硬さの被膜を創成できることを明らかにした. さらに,提案した表面改質システムの更なる応用として,チタン基材に対して窒素雰囲気下で高周波誘導により加熱した後,室温で高速度工具鋼粒子を用いて微粒子ピーニングを施すと,窒素拡散による高硬さ化・耐摩耗性の向上とともに圧縮残留応力の付与も実現され,疲労特性も向上できる可能性が示された. 以上より,本研究の目的である,高周波誘導加熱と微粒子ピーニングを援用した極短時間窒化手法の確立に向けて,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる次年度は,酸素の拡散を利用した短時間表面改質法の確立に取り組む予定である.酸素はチタンの強化元素の1つであり,大気中の酸素の拡散により高硬さの被膜を創成することができれば,雰囲気制御システムや窒素ガスが不要となり,より簡便なシステムでの表面改質が実現され,本提案手法の実用化に寄与できると考えられる.まずは,チタン合金Ti-6Al-4Vを基材として,加熱温度がチタンへの酸素拡散に及ぼす影響について検討を加える.その後,SCM415鋼に対して大気中でチタン粒子を用いて微粒子ピーニングを施し,酸素拡散を利用した硬質膜の創成を試みる.得られた被膜の微視組織,組成,硬さ,耐摩耗性を評価し,拡散元素が窒素から酸素に変化した影響について考察を加える.これらの事項から,より簡便かつ短時間であらゆる金属の表面に高硬さの被膜を創成できる手法の確立を目指す. また,最終年度であるため,得られた結果については迅速に学会での発表や学術論文への投稿を行い,広く公開していく.
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