研究実績の概要 |
本年度は昨年度の研究によって確立した不純物による鋼中への水素侵入の抑制効果の評価法を用いて種々の条件下における不純物の抑制効果を調査した. 抑制効果に及ぼす不純物の濃度の影響を調査するために,10~1,000 vppmの一酸化炭素を含む水素ガス環境中および10~100 vppmの酸素を含む水素ガス環境中で鋼中への水素の侵入挙動を調査した.一酸化炭素を添加した場合,添加量を10から100 vppmに増加させることにより水素の侵入量は曝露時間が短い領域では減少したが,曝露時間が長くなると濃度の影響は漸減していった.添加量を1,000 vppmまで増加させると曝露時間が100時間に達しても水素の侵入は認められなかった.酸素の場合は添加量を10から100 vppmに増加させても顕著な変化は確認されなかった.これは10 vppmの酸素がすでに十分な抑制効果を有していたためであると考えられる. 当初の計画通り,得られた実験結果を用いて不純物の鋼中への水素侵入の抑制効果のモデル化を試みた.酸素の抑制効果においては,水素中への酸素添加の影響を見かけ上の水素分圧の低下と見なすことが出来る可能性を示唆できた.しかし,本研究で得られた結果を不純物を含む水素が合う環境中での破壊靭性試験結果に適応した場合,両者には解離が見られた.実際の材料の破壊プロセスではき裂の進展によって刻々と新生面が生成される点を考慮する必要がある. 一酸化炭素の場合は,鉄表面に対する吸着速度が酸素のそれに比べ非常に低いこと,酸素は鋼中への水素の侵入を完全に防ぐことが出来るが一酸化炭素は出来ないこと,などの違いがあるため,酸素の場合のモデルをそのまま適用することは出来ない.各不純物種によってそれぞれモデルを構築する必要性が示された.
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