研究課題/領域番号 |
20K14627
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上野原 努 大阪大学, 工学研究科, 助教 (10868920)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | レーザ微細加工 / 強度分布制御 / フォトニックナノジェット |
研究実績の概要 |
フォトニックナノジェットの強度分布制御によるフレキシブルな加工制御を目的に,フォトニックナノジェットの電磁場シミュレーションによって制御パラメータについて検討を行った.はじめに,フォトニックナノジェットの発生に必要なマイクロ球の周囲の媒質について検討した.周囲媒質が空気および水であるときに,フォトニックナノジェットの焦点深度が大きく変化することを電磁場シミュレーションによって確認した.また,シミュレーションによる光強度分布の定量的な評価によって,既知の値である加工材料の加工しきい値から加工領域の推定を行った.検討した条件をもとに加工実験を行ったところ,空気中および水中ともにシミュレーションと実験の結果に良い一致が見られた.具体的には,空気中で得られるフォトニックナノジェットは2μm程度の焦点深度をもち,この範囲内でサブマイクロメートルオーダの加工が実現された.一方で,水中では空気中に比べてより長い5μmの焦点深度をもち,この範囲内でサブマイクロメートルオーダ(空気中よりも大きい)の加工が実現された.このことから,周囲の媒質はフォトニックナノジェット加工において重要なパラメータであることを明らかにした.次に,マイクロ球に入射するレーザの波面制御によるフォトニックナノジェットの強度分布制御について検討した.基礎的な検討として,集光ビームの中でマイクロ球の位置を変化させることでマイクロ球に入射する波面を制御した.これを用いて加工実験を行ったところ,加工痕の大きさや形状が異なっていたことから,フォトニックナノジェットの強度分布および姿勢が変化していることが確かめられた.この知見から,空間光変調器を導入し,より柔軟かつ高分解能に光の位相制御が可能となる装置への改良を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は,フォトニックナノジェットの数値シミュレーションを基にして,加工制御について検討した.特に,マイクロ球の周囲の媒質がフォトニックナノジェットの形成に及ぼす影響について,はじめに幾何光学に基づいて考察を行い,次に波動光学に基づいた電磁場シミュレーションによって検証を行った.その結果,空気中と水中ではそれらの屈折率の違いによって,焦点深度が大きく異なるフォトニックナノジェットが得られることが明らかとなった.これを加工に応用することで,それぞれの特性に応じた加工が可能であることを実験的に示した.周囲媒質は加工中にフレキシブルに制御できるパラメータではないものの,フォトニックナノジェットの強度分布を決定する大きな要因であると結論づけた.さらに,加工中にも柔軟に強度分布を制御できるように,マイクロ球に入射する光の位相について検討を行った.まずは,集光ビームをマイクロ球に照射する時の相対的な位置関係を利用して,波面の制御を行った.これにより,フォトニックナノジェットの強度分布と姿勢が制御できるようになり,柔軟な加工制御に応用可能であることを明らかにした.この知見から,空間光変調器を導入してより柔軟かつ高分解能な制御装置の構築を進めているところである.初年度の計画では,空間光変調器を用いた強度分布制御を行う予定であったが,それには至っていない. しかしながら,強度分布の制御と並行して加工メカニズムの解明の基礎的な検討も進めた.これは2年目の研究計画に挙げていたが,前倒しで検討を行った.具体的には,レーザ加工時に発生する衝撃波の検出を行った.マイクロ球の振動を検出する装置を構築することで,発生した衝撃波をマイクロ球の振動解析からその場計測する技術を開発した. 以上より,期待通りに進展しなかった部分と前倒しで進展したものを加味して,「おおむね順調に進展している」と評価した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,空間光変調器を用いたフォトニックナノジェットの強度分布の制御方法についてシミュレーションおよび実験によって検証していく.今まで明らかにしてきたフォトニックナノジェット発生のメカニズムに基づいて,マイクロ球に入射する光の強度分布制御によるフォトニックナノジェットの強度分布制御を行う.具体的には,ラジアル偏光ビームを照射することで,回折限界の半分程度のビーム径を作り出し,加工に応用することで100 nm程度の非常に微細な加工の実現を目指す.さらに,入射光の分布をガウシアンビームとし,その径を変化させることでフォトニックナノジェットのビーム径制御を行う.これらを,空間光変調器を用いて実現することで,加工中にもフォトニックナノジェットの強度分布を柔軟に制御することのできる方法論およびシステムを確立する.特に,ビームの強度分布制御の空間分解能とそれを加工に用いた際の分解能の関係を明らかにする. また,それと並行してフォトニックナノジェットを用いたレーザアブレーション加工のメカニズム解明のため,加工現象のその場計測についても取り組む.本年度に構築したマイクロ球の振動検出装置をもとに,より高分解能および高精度にマイクロ球の変位を検出可能な装置へと改良していく.レーザアブレーション加工では,レーザ照射直後にプラズマが発生し,そのプラズマが膨張することで衝撃波が発生することが知られている.この知見をもとに,フォトニックナノジェットを用いたレーザアブレーション加工特有な物理現象に着目して,その現象のその場計測を行うシステムの構築を進める.さらに,水中における加工も継続し,空気中とは異なる加工現象について探求する.
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