本研究では,少数箇所の温度測定値から熱変形を予測可能な簡易な式を導き,同式を用いて熱変形誤差を補正する方法を提案するものである.現状では,作業者の主観的な経験によって式の導出を行い,多数の試験を行って実験定数の決定を行う同手法を,経験に因らず,低コストで迅速に熱変形補正システムを構築可能とするために,熱変形解析,切削模擬試験,実験計画を利用した少数の実切削試験によって,様々な条件に対応可能な熱変形予測式を導く方法を確立した. まず,all pair法による実験計画と分析手法を確立した.工作機械の実機で切削模擬試験および実切削試験を実施し,複数の動作条件下での稼働状態測定を行い温度,変位量を測定した.得られたデータからall pair法と直交表による実験条件から導出した予測式の精度を比較し,加工精度を維持しつつ試験回数を削減できることを確認した. さらに,工作機械の熱変形解析手法の確立を行った.all pair法および直交表で設定した実験条件における温度分布と熱変形を再現する解析条件を導出した.解析時の境界条件である対流と熱荷重の設定を適切に行い,解析結果から装置各部の熱変形を分析し,工作機械全体の熱変形挙動を可視化した.また,実機試験における連続8時間の温度変化のうち特徴的な時刻の熱変形挙動を解析で再現し,実機における非線形な熱変形現象を主要な発熱源である主軸モータと装置各部の温度差により説明できることを示した.さらに,allpair法で設定した実験条件の熱変形との関連性を確認できた.
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