研究課題/領域番号 |
20K14639
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村島 基之 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70779389)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 能動的摩擦制御 / 高粘度油滴 / 流体潤滑 / 誘電泳動 / その場観察 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では,環境負荷が小さい潤滑システムの実現のために,良好な潤滑膜形成特性を有する高粘度油滴を誘電泳動により摩擦しゅう動部へ選択的に輸送する技術の開発を実施した.機械の通常の潤滑においては,潤滑油中の添加剤が表面で反応することにより低摩擦化を実現する.一方で,添加剤の高環境負荷や高価格という特徴から,その使用量の低減が強く求められている.そこで,本研究では,摩擦界面において良好に潤滑膜を形成する高粘度油の液滴を摩擦システム全体の流体抵抗を低減する低粘度油中に分散させることによる新しい潤滑システムの構築に挑戦した.この分散された高粘度油滴は通常の摩擦条件では摩擦界面へ選択的に進入することがないため,低摩擦化効果を発現しない.本研究においては,この高粘度油滴を摩擦界面へ選択的に誘導する為に,摩擦界面へ交流電場を印加することによる誘電泳動現象を用いた.結果として,低粘度油単体の場合の摩擦係数が0.12であったものが,高粘度油滴と交流電場の印加を用いた場合に0.09まで摩擦係数を25 %低減させることに成功した.さらに,相手摩擦面を透明なガラスとすることにより,潤滑状態のその場観察を実施した.その結果,交流電場を印加した場合には金属球周辺への高粘度油滴の凝集が観察され,これが低摩擦化に寄与したことが明らかにされた. また,マイクロフロー流路により液滴を微小化する装置の開発も実施した.具体的には,送り量を精密に制御可能なステッピングモーター,マイクロシリンジ,マイクロフロー流路を組み合わせることで低粘度油中への高粘度油滴の分散を達成した.次の研究においては,この微小な高粘度液滴の摩擦界面への選択的誘導手法の低摩擦化効果の検証を実施する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の研究成果により,良好な潤滑油膜形成特性を有する高粘度油滴を誘電泳動により摩擦界面へ選択的に誘導することで,固体表面と固体表面の直接接触が生じる境界潤滑状態における低摩擦化を実現した. 1.油滴誘因力の定量化に関しては,摩擦回転速度を制御することにより凝集された油滴に流体抵抗+遠心力を加えることで,どこまで高粘度油滴が摩擦界面に吸着するかを明らかにした.具体的には,50 rpmで回転させた場合には電圧印加時と無印加時の摩擦係数の差異が最大となり,200 rpmで回転させた場合には電圧印加条件における摩擦係数の差異は見られなくなった.すなわち,200 rpmの摩擦条件において流体抵抗+遠心力が誘電泳動による吸着力を上回ることが明らかにされた.今後は,流体抵抗を含めた具体的に作用している力の計算を実施する. 2.表面エネルギーを変化させた表面を形成することにより,表面エネルギーが高粘度油滴の凝集やその摩擦低減効果に与える影響を明らかにした.具体的には,撥水処理した表面を用いた場合には,高粘度油滴による摩擦低減効果が確認されず低粘度基油中での摩擦係数0.12と同じ値を示すことが明らかとなった.この時の,回転速度は50 rpmであり,撥水処理を施していない表面では25 %の摩擦低減効果が確認された摩擦条件である.高粘度油には極性成分を有する潤滑油が用いられているため,水素結合力成分が低粘度油よりも大きい.つまり,摩擦界面に誘引された高粘度油滴は誘電泳動力と表面エネルギーが及ぼす濡れ性により摩擦界面にとどまることが明らかにされた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の大きな成果としては,「高粘度油滴の誘電泳動を用いた摩擦界面への選択的輸送技術の開発」と「その輸送技術を用いた良好な潤滑油膜形成による低摩擦化」である.今後の研究では,マイクロフロー流路を用いることによる,マイクロ微小高粘度油滴の形成とそれを用いた低摩擦化技術に挑戦する.また,油滴が微小化されることにより生じる体積効果が,摩擦界面への誘因力・吸着力に与える影響を明らかにする.また,当初は添加剤使用量の大幅削減と摩擦低減の両立を目標としていたが,研究の進捗により高粘度油滴のみを用いることでも,摩擦低減効果を有することが確認された.これはすなわち,環境汚染物質である添加剤を全く用いる必要のない潤滑システムの構築につながる当初想定しなかった発見である.今後の研究としては,以下の3点に関して挑戦する. 1.境界潤滑,混合潤滑,流体潤滑と潤滑状態が異なる摩擦状態にて,誘電泳動を用いた摩擦界面への高粘度油滴凝集が摩擦に及ぼす影響の解明.現在,境界潤滑状態において高粘度油滴の摩擦界面への選択的輸送が摩擦低減効果を有することが明らかになった.今後は,より流体潤滑に近い摩擦条件で高粘度油滴がどの潤滑領域で摩擦低減効果を有するかを明らかにし,この摩擦低減メカニズムを解明する. 2.高粘度油滴のサイズと表面粗さや油膜厚さの関係が摩擦界面への高粘度油滴の進入挙動へ及ぼす影響の解明.油滴サイズと摩擦界面隙間の関係から,これまで不明であった油滴の摩擦界面への進入モデルを構築する. 3.固体潤滑剤含有高粘度潤滑油滴の誘電泳動による摩擦界面への誘因による超低摩擦化技術の開発.固体潤滑材を高粘度油滴に含有させることによるさらなる摩擦低減技術の開発に挑戦する.
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