自動車などの機械部品の摩擦摺動部において良好な潤滑状態を構築するために,高分子潤滑添加剤が注目されている.高分子添加剤は,潤滑油の粘度調整のみでなく,材料表面に吸着することによって低摩擦・低摩耗性能を発揮する.しかし,「高分子添加剤の構造」が金属表面への吸着特性や摩擦特性に及ぼす影響に関しては未解明である.そのため,今後も幅広い利用が予想される高分子添加剤の設計指針を築くためには詳細な検証が必要である. 本研究では,高分子添加剤のモデルとして直鎖型や分岐型などの様々な構造体が容易に形成可能であるDNAを利用して,高分子添加剤の構造が摩擦特性と吸着特性に及ぼす影響を明らかにするとともに,効果的な高分子添加剤の開発や使用環境に応じた高分子添加剤の選定基準を提示することを目的として評価を行った. 直鎖構造や分岐構造をもつ高分子添加剤のモデルとして扱うDNA高分子添加剤を作製した.作製したDNA高分子添加剤を使って摩擦測定を行った結果,摩擦係数の値は直鎖構造のDNA添加剤の方が低くなった.一方で,摩耗量は分岐構造の方が小さくなり,3つ以上に枝分かれしたものでの差は小さかった.また,DNA高分子添加剤を蛍光標識して基板表面への吸着量を蛍光強度によって評価した.その結果,分岐構造を持つほど蛍光強度は弱くなりやすい傾向が見られた.これは基板上への吸着量が少ないことを意味する.以上の結果から,分岐鎖は多いほど基板上に強固に吸着されるために耐摩耗性が向上するのに対し,摩擦低減にはそれほど寄与しない可能性が示唆された.
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