本研究は2面間に働く凝着力の時間依存性(引き離し速度依存性や接触待機時間依存性)について調べた研究である。具体的には、超高精度表面力測定装置(エリオニクス社製ESF-5000K)を用いて引き離し速度や接触待機時間を変化させて球・平面間の凝着力を測定し、固体材料の粘弾性が凝着力に与える影響を明らかにした。初年度(2020年度)では、実験環境設定および実験を行った。ESF-5000Kは当初荷重制御しかできず、引き離し速度が引き離し中に変化する問題点があったが、企業の方と連携し、速度制御ができるよう改良した。また、本実験で必要な部材等を購入し、実験可能な環境にした。2年目(2021年度)では、実験と実験装置のシミュレーションを行った。実験成果は、引き離し速度が大きい場合(10nm/s以上)では表面力・凝着力が引き離し速度とともに増加する結果が得られたが、小さい場合(10nm/s以下)では逆の傾向を示すことが新たにわかった。また、実験装置のシミュレーションをして、実験では直接得られない接触状態(接触半径、弾性変形量、押し込み深さなど)の予測を可能とした。3年目(2022年度)では、引き離し速度が小さい場合で逆の傾向を示した理由を考察し、引き離し速度が小さい場合は総接触時間が長くなるからではないかと仮説を立て、追加実験を行った。接触待機する時間のみならず、接触開始から引き離しが起こるまでの総接触時間を一定にして実験を行ったところ、速度が小さい場合においても、引き離し速度が増加すると凝着力が増加することが分かった。また、シミュレーションでは粘弾性を取り入れない場合についてはすべての段階において実験結果と良い一致を示す結果が得られた。粘弾性を取り入れた計算では、接触開始から引き離し開始時までは実験結果と良い一致を示したが、引き離し開始から引き離れまでの過程ではまだ検討が必要である。
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