研究課題/領域番号 |
20K14646
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
武藤 真和 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任助教 (30840615)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脳血管障害 / 脳動脈瘤 / 光弾性 / 偏光計測 / 流体計測 / 圧力計測 / 可視化技術 / レオロジー |
研究実績の概要 |
クモ膜下出血を引き起こす破裂脳動脈瘤の瘤径が5 mm未満であることを背景に,「脳動脈瘤モデル内の非定常流体応力場を申請者の提案する光弾性法 (課題番号: 19K23483) により可視化し,応力集中部の三次元位置を5 mm未満の精度で特定する」ことを本研究の最終目標とする.本計測手法は,複屈折を有する鎖状高分子流体の流動場を高速度偏光カメラにより撮影することで,流体応力場を非定常に可視化できる.しかし,光軸方向の積算圧力の取得に限られるため,本研究ではX線CTなどで利用される画像再構成技術を活用することで三次元流体応力場の可視化を目指す.本研究では,「1. 位相差と主応力差の校正実験」,「2. 計測対象厚さの補正係数の導出」,「3. 4D流体応力場計測システムの構築」を開発基盤として,最終課題「4. 脳動脈瘤モデルの非定常流体応力場における応力集中部の特定」を達成する. 初年度(令和二年度)では,偏光カメラにより得た偏光情報である位相差分布を応力場に変換するために必要な,応力値-位相差の校正曲線の取得を試みた.粘度や応力を非接触計測できるレオロジー測定手法CaBER-DoSを活用することで,垂直応力負荷時の高分子流体の位相差計測に成功し,校正曲線を得ることができた.この校正実験により,当初予定していた校正装置を用いた結果以上の成果を得た. 偏光カメラにより取得した積算位相差を流路断面の二次元位相差分布に落とし込むため,異なる厚さ(断面積)を有する矩形直線流路内を流れる高分子流体の位相差計測を実施した.その結果,カメラの被写界深度よりも計測対象厚さの影響が支配的であり,厚みに対して線形的に位相差が増加する傾向を確認した.これは光学応力則として知られており,固体高分子での発現に関しては多くの知見があるが,液体高分子に関する知見は比較的少ないため,学術的に意義のある成果といえる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度(令和二年度)の研究計画は,主に「位相差と主応力差の校正実験」と「計測対象厚さの補正係数の導出」の二点である. 位相差と主応力差の校正実験に関しては,局所クエット流れによるせん断応力を高分子流体に作用させる校正装置の構築を当初の計画では予定していた.しかし,この手法では液体と壁面の接触箇所が多いために,純粋なせん断応力の負荷が困難であった.そこで,高分子流体の一軸伸長により作用する純粋な垂直応力を非接触計測できるCaBER-DoS (Dripping-onto-substrate capillary break-up extensional rheometry) を活用した校正実験を構築した.これを光弾性法と組み合わせることで位相差と主応力の同時計測を実現し,校正曲線の取得に成功した (武藤ら,日本流体力学会年会,2020) (Muto et al.,APS/DFD,2020). 計測対象厚さの補正係数の導出に関しては,異なる厚さ(断面積)を有する矩形直線流路内を流れる高分子流体の位相差計測を実施した.位相差分布は光軸方向の積算圧力と比例関係を示すと考え,Matlab (R) により算出した積算圧力分布と比較検証したが,両者の空間強度分布は一致しなかった.そこで,積算応力分布に対して鎖状高分子の配向方向に対応した応力テンソル変換を施し,それと位相差分布を比較した結果,両者の空間強度分布はよい一致を示したことから,液体高分子における光学応力則を実証できた (中峰,武藤ら,日本流体力学会年会,2020). 以上の点で,当初予定していた計画をおおむね遂行しているため,現在までの本研究の進捗状況はおおむね順調に進展していると評価できる.
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今後の研究の推進方策 |
令和三年度では,円管流路における三次元流体応力を非定常に可視化する「4D流体応力場計測システムの構築」を研究目標に掲げている.そこで,円管流路内高分子流体の位相差分布計測を実施し,位相差-主応力差の校正曲線と鎖状高分子の配向方向を考慮した光学応力則 (どちらも令和二年度に取得済) を活用することで,積算応力場の実験的導出を試みる.実験では,モデルの流入口・流出口に接続した脈動ポンプにより,実際の脈動波形で高分子流体を流入する.また,壁面での光の屈折を低減させるインデックスマッチングによりバルク流体の良好な計測を狙う. 取得した積算応力場に対して,画像解析ソフトを利用した逆投影法 (Nicolas et al., Exp. Fluids, 2016) により,三次元流体応力場を再構築する.再構築プロセスでは多方向からの観察画像を要するが,円管流路では軸対称の回転補完により単眼画像のみで構築できる.また,本手法に関しては,研究代表者の所属研究室にて実績がある (Hayasaka et al., Experiments in Fluids, 2019). さらに,特異形状モデルにおける応力集中部の三次元位置や応力強度を調査する.特異形状モデルの計測では,脈動周期毎における側面多方向からの積算応力場の撮影画像と逆投影法を組み合わせ,三次元非定常流体応力場を三次元再構成する.得られた三次元流体応力場の妥当性を検証するため,流体応力場の数値解析結果と比較検討する. 成果は,混相流シンポジウム2021,25th ICTAM,74th APS/DFDなどの国内外の学会において発表を予定している.また,査読付きジャーナルであるScientific reports誌およびPolymer誌などの論文公表を予定している. 本計画の実施にあたり,本学大学院生(中峰)および大学生(Worby)の協力を得る.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた校正装置では,ガラス加工水槽に満たされた高分子流体に対してアクリル加工円盤をサーボモータにより回転させることでせん断応力を負荷させる構造であった.しかし,校正装置をCaBER-DoSに変更したため,現有の備品での構築が可能となり,当初計上していた実験装置の費用が大幅に軽減された.また,新型コロナウイルスによる国内・国際学会のオンライン開催などに伴い,当初予定していた旅費の支払いに充当できなかった. 次年度使用額の使用計画としては,脳動脈瘤内の応力場計測に向けた指針を得るため,複雑流路形状を有するガラス製またはシリコン製流路の製作費用に充てる.さらに次年度は,円管流路内の流動場計測に向けて,流路と作動流体の屈折率を揃えるインデックスマッチングを実施する.そのため,作動流体の購入費用に充てる.計測における光学系関連の備品に関しては,現有の備品で代用が可能である.
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