研究課題/領域番号 |
20K14648
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
吉永 司 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (50824190)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 声帯 / 空力音 / 人工声帯 / 2質点モデル / 数値流体解析 / 声道 / 3音響管モデル / 埋め込み境界法 |
研究実績の概要 |
本年度は,声帯音の流体-構造-音響連成解析手法の構築に向けて,リード式人工声帯に声道を加えたシミュレーションと,声帯2質点モデルに関する新たな解析手法の構築を行なった. 昨年度実施したリード式人工声帯の流体-構造-音響連成解析に対して,声帯の後流に,円筒型に単純化した声道形状を設定し,声帯から出た音が声道内で共鳴して母音の音響特性を形成できるのか確認した.リード式声帯から発生する音は3000 Hz程度まで音量がほとんど一定となる倍音を生成するのに対し,後流に円筒を設置することで,円筒が持つ共鳴周波数において音量が増幅し,母音のフォルマントが現れた.この共鳴周波数およびスペクトル形状は,実験による計測音とほとんど一致し,十分な精度で音の発生まで予測できることがわかった.さらに,3音響管モデルと言われる,円筒に狭窄流路を形成した声道模型を用い,狭窄流路の位置を変化させることで,声帯の振動様式に与える影響を調べた. さらに,より実際のヒトの声帯振動に近い振動様式について流体-構造-音響連成解析手法を開発するため,声帯2質点モデルに対する気流のシミュレーションを実施した.声帯2質点モデルは,声帯の粘膜波動を再現するために,2つの質点をばねとダンパで繋いだ古くから使われているモデルであり,このモデルに対して3次元の圧縮性流体シミュレーションを行なった.2つの質点をなめらかな接線で繋ぎ,質点にかかる流体力とばね・ダンパ系との相互作用を埋め込み境界法により計算した.得られた結果と従来の1次元解析との比較により,3次元的な気流の変動が遠方音に与える影響を明らかにした.さらに,声帯が左右非対称な振動特性を持つ際に,1次元と3次元の気流解析においてどの程度の差が現れるのかを調べた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,声帯の粘膜波動の振動様式を表現する2質点モデルを用いた新たな解析を実施できた.2質点モデルではリード式人工声帯と異なり,左右の声帯ひだが上下の位相差を持って振動するため,ひだの先端から気流が剥離する位置が時々刻々と変化することが報告されている.この振動様式に対して,これまで使用していた埋め込み境界法による壁面の表現を活用して解析を行った.この解析によって,声帯表面に現れる剥離点が境界層方程式を解いて現れる剥離点と一致し,上手く解析できていることがわかった.また,計算格子を徐々に細かくして,最小格子幅0.025 mmおよび0.02 mmの結果がほとんど同じとなり,最小格子幅が0.025 mmで十分な精度が得られることがわかった.これらの結果について,1次元気流モデルと比較することにより,3次元の気流の特性を明らかにしていく予定である. さらに,リード式声帯音源の下流に声道を模擬した流路を設置することで,声道形状が声帯振動に与える影響を正しく解析できることを示すことができた.声道に狭窄流路がある際,狭窄流路により声道および声帯付近の流速と圧力が変化し,声帯の振動様式が変化することが知られている.この作用を3音響管モデルの狭窄流路位置の違いにより再現することができた.この結果は,将来的に2質点モデルや,より高次のモデルの解析を行った際にも,声道の形状変化が声帯の振動に与える影響を調べることができることを示唆している.これまでの1次元の音響解析では,声道のインピーダンス変化によるモデル化が行われていたが,今後は喉頭蓋や舌形状などのより複雑な形状に対して,3次元的な気流の変動と声帯振動が受ける影響について解析できる.
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今後の研究の推進方策 |
まず,これまで構築した声帯2質点モデルの圧縮性流体解析に対して,1次元の気流解析との比較により,3次元の気流変動による解析結果への影響を明確にする.特に,左右の声帯ひだの振動特性を変えた時,ひだの位相差が生まれて左右の圧力差がどの程度生じるのか,また1次元解析ではどの程度の違いが生じるのかを明らかにする.さらに,1次元解析のように計算負荷が低くても上手く計算できる,新たなモデルを提案する.これまでの声帯の振動解析では,1次元の気流モデルが多く利用されており,これらモデルに対して,3次元の気流の影響を考慮した修正案を提示することで,この分野に大きなインパクトを与えることができる. さらに声帯2質点モデルに関して,有限要素法を用いた2次元および3次元解析に拡張することで,より複雑な振動形態を再現できるようにする.特に,2質点モデルでは声帯の前後方向の形状変化は表現できず,より実際の声帯の振動を再現するには,有限要素法を用いた連続体による軟組織の変形を計算する必要がある.この計算手法を開発した後,これまでの流体-構造連成解析手法に組み込む予定である.そして,解析形状に声道を付与することで,流体-構造-音響連成解析手法を完成させる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,コロナウイルス禍において,ほとんどの学会や研究打合せがリモートのオンライン会議となり,旅費を使用しなかったためである.次年度は,多くの学会が対面開催を予定しており,昨年度の残額を用いて学会での成果発表を精力的に行う予定である.
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