本研究課題では,声帯振動に関する空力音の発生に対して,声帯の振動,気流の通過および音の発生を精度良く解析できる計算モデルを構築することを目的としていた.約3年間の実施期間において,単純化した声帯形状周りの気流の解析から,2質点モデルによる振動のモデル化,そして,音質の予測までを精度良く計算できるモデルの構築に成功した. 声帯周りの気流に関しては3次元ナビエ・ストークス方程式を計算することで,これまでの1次元気流モデルでは扱えなかった声帯周りの3次元的な気流構造を考慮し,埋め込み境界法を用いることで,壁面の移動も扱えるようにした.気流は空気の圧縮性を考慮することで,音の発生に関しても同時に計算を行う.そして声帯振動は2質点モデルを用いてモデル化することにより,気流と声帯振動の連成および,その振動から発生する音までを実験と比べて十分な精度で予測できることを確認した.さらに,発生音が声帯振動にフィードバックを与える現象まで考慮できることを確認した. 構築した解析手法に関して,これまで一般的に用いられて来た1次元の気流モデルの結果と比較することで,声帯が左右非対称の振動となっていても,ある程度の非対称性においては1次元モデルでも十分な精度で予測できることを明らかにした.一方,左右非対称性が強くなると,1次元モデルでは不十分であり,3次元モデルが必要であることを示した.さらに,声帯の3次元的な振動をモデル化するため,有限要素法とモード解析を組み合わせ,気流のモデルと連成して解析できるよう解析ソフトウェアを発展させた.
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