本研究ではサブマージアーク溶接現象の実験観察を行うとともに,この溶接現象を一挙に解く統合数値演算モデルを確立し,電源の各設定パラメータが溶接現象に与える影響を定量的に明らかにすることを目的としている. 令和4年度ではこの統合数値演算モデルを確立するための次段階として,前年度に構築した溶融池の流動とスラグ輸送過程を同時に解く数値演算モデルの発展を試みた.具体的には,スラグを固体として取り扱う従来モデルから,溶融スラグと溶融金属の二層流体の流動を解く新モデルへと発展させることで,スラグを実現象と同じ流体として取り扱うことを可能とした. その結果,改良したモデルにおいても,溶接中にスラグが熱源中心近傍で形成され,溶融池端部を伝って後方へ輸送された後,後方で滞留するという一連のスラグ挙動が再現されていることを確認した.またスラグ輸送過程を明らかにするため溶融金属とスラグの速度分布を比較したところ,両者の位置ごとの速度の方向,速度が大きくなる領域が一致していたことから,スラグは溶融金属によって輸送されていることが明らかとなった.そこで溶融池駆動力および溶滴移行がスラグ輸送に与える影響について調査を行った結果,Marangoni効果による力および表面せん断力がスラグの輸送に影響し得ることが示された. これまでの研究成果により,電極-アーク-スラグ-溶融池を解くモデルの個別の構築が完了し,本研究の目的であった統合数値演算モデルの構築は概ね達成されたといえる.実験観察においても,ラボスケールの低電流から実施工の大電流に至る広い電流範囲でのサブマージアーク溶接現象を観察可能な技術を確立した.
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