相変化材料の融解過程における液相内熱流動現象の理解は,近年注目を集める潜熱蓄熱システムの最適な熱設計に必要不可欠である.本研究課題では,相変化材料の融解過程で生じるレイリーベナール対流現象の解明を最終目的とし,具体的目標として「液相内温度場・速度場と加熱面熱伝達率分布の同時可視化計測システムの構築」,「諸種条件下における相変化材料内熱流動現象の可視化実験」,「現象の無次元化,データベースの構築」を設定した. 最終年度は①諸種条件下での相変化材料の融解過程で生じるレイリーベナール対流の可視化実験と,②得られた同時可視化データによる現象の無次元化および可視化データベースの構築を目指した.①では,昨年度に引き続き,蓄熱材としてよく使用されるn-オクタデカンを用いた相変化材料の融解過程で生じるレイリーベナール対流の熱と流れの同時可視化実験を行った.実験では,ステファン数や容器アスペクト比,傾斜角度に着目し,加熱面熱伝達特性および液相内熱流動現象にどのような影響を与えるのかを検証した.さらに融解過程で生じる自然対流現象の理解をさらに深めるために,非平面冷却面を有する自然対流現象の可視化実験を追加で実施し,非平面冷却面による膜温度の低下が加熱面熱伝達特性に影響を与えることを実験的に明らかにした.②では,得られた実験データを容器アスペクト比やステファン数,傾斜角度毎に,液相高さを代表長さとする修正レイリー数とヌセルト数を用いたスケーリングを行った. 研究期間全体を通じて,上記に挙げた具体的目標をおおむね達成することができた.本研究で得られた研究成果は,相変化材料を用いた潜熱蓄熱システムの最適熱設計の指針や数値解析コードの検証に有用であり,熱流体工学や計算力学分野,産業界に至るまでその波及効果は大きいと考える.
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