研究課題
単層カーボンナノチューブ(CNT)の周囲に窒化ホウ素原子層を化学気相成長法により合成することで、単層CNTと窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)から成るヘテロ構造を構築した。単層CNTフィルムをテンプレートに用い、単層CNT-BNNT複合薄膜を形成し、自立膜として取り扱えることを確認した。得られた複合薄膜を銅ブロックおよびSi梁構造間に架橋させ、ヒーターにより温度差を形成し、赤外線カメラを用いて温度分布と熱流束を計測することにより、単層CNT-BNNT複合薄膜の熱伝導度を計測した。BNNTとの複合化により、元の単層CNT薄膜よりも複合薄膜の熱伝導度が向上したことを確認した。さらに、単層CNT-BNNT複合薄膜の電気伝導度、光透過率の計測を行い、テンプレートである単層CNT薄膜の有する高い電気伝導度と光透過率を維持されていることが示された。高い熱伝導率、電気伝導率、光透過性を有する単層CNTと、高い熱伝導率と光透過性を持ちながら電気的には絶縁体であり燃焼温度の高いBNNTという異なる材料を組み合わせることで、単一の材料とは異なる特性を持つ新材料として、複合薄膜の応用可能性を示すことに成功した。また、単層CNTの熱伝導率は、構成する炭素原子の同位体比率に影響されることが予想されている。合成時の炭素原料として、通常の12Cから成るエタノールに加えて13C同位体を含むエタノールを用いることで、炭素原子の同位体比率の制御を行った。水晶基板上での配向成長を行い、部分的に同位体含有比率の異なる単層CNT孤立配向構造を形成した。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定の通り、単層CNT薄膜に基づくBNNTとの複合構造を形成し、その熱伝導度の向上を確認した。単層CNT-BNNT複合薄膜における電気伝導度の計測についても実施し、元の単層CNT薄膜が有する高い電気伝導度を概ね維持できていることを示した。また、BNNTの高い酸化耐性に由来し、単層CNT-BNNTは空気中で高温まで燃焼しないことが確かめられている。これらの特徴により、単層CNT-BNNT複合薄膜は従来の単層CNT薄膜やBNNT薄膜の特徴を併せ持つ優れた材料であることを示した。さらに、同位体含有比率が部分的に異なる孤立単層CNTの合成を行った。以上により、本研究課題は順調に進行しているといえる。
本研究における独自の同心ヘテロナノチューブ合成技術においては、金属触媒を用いておらず、テンプレート単層CNTの表面上での原料ガスの熱分解により原子層が成長する。そのため、得られたBNNTの結晶性には向上の余地があることが予想される。特に、より高い熱伝導率や空気中燃焼温度を有する単層CNT-BNNT複合構造を実現するためには、BNNTの更なる結晶性向上が必要であると考えられる。合成時または合成後の後処理としての高温アニールの適用や、気相中における触媒供給に関して検討を行い、BNNTの構造に与える影響について分析を進める。
合成実験における消耗品を効率的に使用することができたため少額の次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせて消耗品に使用することで次年度の実験回数を増加する計画である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件) 学会発表 (14件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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