研究課題
カーボンナノチューブ(CNT)ネットワーク全体における熱輸送ではCNT同士の接触部分におけるフォノン散乱が大きな散乱因子となる。また近年実験からも明らかになってきたように、CNTはバンドル化することにより大きく熱伝導率が低下する、つまりCNT同士の面間相互作用によりフォノンが強く散乱される。CNT同士の接触部や面間相互作用の影響はこれまでにも分子動力学法や原子グリーン関数法などにより理論的に研究されてきたが、ネットワークやバンドルの熱輸送特性を制御するためには、より詳細な理論解析が必要である。そこで本研究ではS-matrix法と原子グリーン関数(AGF)法を用いた手法を応用し、CNT同士の接触部や面間におけるフォノン散乱モード依存性を明らかにすることを目指している。本年度は解析技術を確立するため、S-matrix法とAGF法を利用した実装したソフトウェアを開発した。既にシリコンやグラフェンなどにおけるテスト計算を行い、過去の研究と良い一致が得られることが確認できた。本課題において、フラーレン内包によりCNT単体の熱輸送特性、特にフォノン波動性を制御可能であることを示してきた。これはVan der Waals力による弱い相互作用によっても熱輸送特性に大きな影響を及ぼすことが可能であることを示している。そこで、材料は異なるがVan der Waals力により低熱伝導率が実現しているクラスレート化合物に着目し、フォノン特性の詳細な解析を行った。これにより、室温付近においてフォノン非調和効果やコヒーレント輸送の寄与により熱伝導率の減少が抑制されることが明らかになった。本成果をまとめた論文は既に査読中であり、CNTにおけるフラーレン内包効果と比較することで、様々なVan der Waals力が及ぼす影響の理解が進むと期待される。
2: おおむね順調に進展している
CNTネットワークの解析技術に関しては海外研究者との共同研究であり、コロナ禍の中で予定より遅れている。一方で、S-matrix法を利用したフォノン散乱の詳細なモード依存性解析やVan der Waals力の効果の他の材料への発展は予定にはなかった部分であるが、学術的に大きな意味があり今後のさらなる発展も期待できる。そのため本課題全体としてはおおむね順調に進んでいると考えている。
本年度S-matrix法を用いた任意構造におけるフォノン散乱モード依存性解析技術を確立した。そこで、今後はこの手法を用いCNT同士の接触部や面間相互作用におけるフォノン散乱を詳細に解析する予定である。一般に熱輸送に寄与するフォノンは長波長フォノンであるが、CNT接触部ではそのような長波長フォノンは散乱されやすいと考えられる。しかし、その詳細なモード依存性は従来の手法では解析が難しく、これがCNTネットワークやバンドルの構造を決定する上で障害となっている。2022年度はS-matrix法を利用した様々な構造におけるフォノン散乱モード依存性を解析することで、CNTネットワークの熱輸送特性を制御する手法を提案する。
次年度に64,342円繰越した。本年度はコロナ禍で旅費の支出がなかったが、今年度は旅費の支出が予想され、そのために利用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Physical Review B
巻: 104 ページ: 14306
10.1103/PhysRevB.104.014306
Materials Horizons
巻: 8 ページ: 2463-2474
10.1039/D1MH00751C