研究課題/領域番号 |
20K14675
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
坂本 勇樹 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 助教 (50845774)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | キャビテーション / 気泡崩壊 / レーザー / 水素 / 液体水素 |
研究実績の概要 |
液体水素が漏洩した時,極低温状態の物質表面で液体空気が生成・滴下すると,特定の条件下では爆発現象を誘発することが確認されている.しかしながらこの爆発に至る明確なメカニズムは解明されていないのが現状である.本研究では,昨今その需要が高まっているいる液体水素の安全利用に寄与すべく,本事象発生のメカニズム解明に取り組んでいる.申請者は,液体空気の落下に伴って,極低温液中において気泡が圧壊した際の局所的な高温場が原因と推定している. 本年度は主に実験的手法のよる解明に重点を置いた.昨年度は液中にレーザーを照射することで局所的な突沸を発生させる「レーザーキャビテーション法」に着目し試験方法を検討した.これを発展させ,①酸素と水素を混合させた可燃性混合気をレーザーキャビテーションで圧壊させる試験,②バックライトによる気泡観察とシュリーレン撮影による衝撃波観察を組み合わせてより詳細なデータ取得等を行った.①の試験では十分に可燃性混合気泡を圧縮することができず,着火現象自体を確認することはできなかったが,安全な試験手法を確立することができた.また着火に至るための条件についても整理できており②の試験に反映している.②では従来よりもより高速に撮影できるカメラの導入により,気泡の圧縮・膨張に至る過程をとらえた.併せてシュリーレン撮影の導入により,衝撃波が隣接気泡に衝突する過程も観察できている.本結果から最大で気泡温度が1000Kを超えると推定される試験結果を得ている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①可燃性混合気を用いたレーザーキャビテーション試験:シリコンオイル中でレーザキャビテーションを用いた気泡崩壊による衝撃波を生成し,可燃性混合気(空気:水素=0/25/50/75/100%)を圧壊させたときの挙動を観察した.本実験ではいずれの条件においても,明確な着火を確認することはできなかった.また,気泡温度についても得られた光学計測データと衝撃圧データを数理モデルと比較したところ着火温度には到達していないだろうことが推定され,初期の気泡径を小さくする,もしくは生成される衝撃圧を大きくすることが重要である見通しを得た.また本実験では混合気を充填したシリンジを,ステッピングモーターで移動させる遠隔制御システムを構築しており,安全な試験方法を確立できている. ②レーザーキャビテーション現象の詳細な観察:①での課題として,実際の衝撃波観察や高フレームレートでの気泡観察が必須であることが明らかになっている.そこで,シュリーレンシステムの適用およびより高速撮影が可能なカメラの導入を行った.併せてより大きな衝撃波発生のために,高エネルギーのレーザーも導入している.気泡周りに生成される衝撃波の可視化と気泡の圧縮過程の詳細な記録が可能となった.本試験では空気を注気しているが,レーザーキャビテーション気泡の近傍に気泡があった場合,最大で内部温度が1000Kを超えることを確認した.水素の着火温度が約850Kであることから可燃性混合気で同様の試験を実施した場合,着火に至るめどを得た.
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今後の研究の推進方策 |
■レーザーキャビテーション試験:昨年度までに①可燃性混合気を用いた安全な試験手法の確立,および②レーザーキャビテーションで水素の着火温度を超える気泡崩壊が可能な見通しを得ている.今後は②と同様の条件で可燃性混合気を用いた試験を実施し,A:実際にキャビテーションによって着火現象に至ることを確認する予定である.さらにB:同様の試験を極低温環境で再現することが課題となる.Aについては水およびシリコンオイル下において可燃性混合気を抽気し,高速撮影・シュリーレン撮影・衝撃圧計測によって着火有無を判定する.Bについては,Aと同様の試験を真空槽内に置いたサブクール液体窒素中に酸素・水素混合気を抽気し,レーザーを照射する予定である. ■理論解析および数値計算手法:これまでにOpenFOAMを用いた数値計算を行っており,レーザー気泡の温度や大きさについて理論解析と同等の結果を得ている.一方で,衝撃圧の再現には至っておらず,隣接気泡の圧壊の再現には至っていない.引き続き衝撃圧の再現ができるよう計算手法を検討し,完了し次第実験結果との比較および詳細なメカニズム解明に取り組む予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,2021年度内に極低温環境下での試験実施を目標としていたが,常温環境においても着火現象の確認に至っておらず,常温試験用の装置を用いて検討を行っているところである.2022年度には低温試験を予定しており,その装置開発費として使用する計画である.
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