本研究の目的は,動吸振器を用いた振動制御問題を通して,所望の機能を持ったネットワーク構造を技術者自身が自由にデザインするための基盤を築くことである.ネットワーク構造とは頂点と枝のみで構成される比較的変化しにくいネットワークの骨格のことであり,ここでは,機能を具現化する機械装置として動吸振器を用い,ネットワーク構造と制振効果(機能)の観点からその制御器設計を試みる.ここでは,ネットワークを構成する最小要素として同期特性を有した非線形振動子を用いた. 初年度は,振動制御問題に適した振動子とそのネットワーク構造を考察し,その結果,複雑な振動応答に同期するためには,振動子どうしが結合したマクロな集団よりも,振動子単体が多くの素子で構成されるミクロ構造が重要であることを明らかにした.次年度は,まず,このミクロ構造を持つ振動子の設計法を整理し,二つの論文を国際誌に掲載した.その中で,閉ループ内の振動子の本質的な役割や振動子と分数階微分の関係についても明らかにしている.そして,このミクロ構造を持つ振動子どうしを結合させたマクロなネットワークの構造設計に取り組んだ.具体的には,ネットワークモデルの一つであるホップフィールド・ネットワークを参考に,パターン選択の機能を有した相互結合型のネットワークを考察した.最終年度は,引き続き,マクロな振動子ネットワークの特性を調査するとともに,振動子ネットワークによる振動制御を実装するための振り子装置を製作した.この振り子装置については,今後,振り子式のアクティブ動吸振器に改造する予定である. 研究期間全体を通じて,当初予定していた振動子ネットワークを用いた動吸振器システムの実証実験には至らなったものの,そのネットワークに用いる振動子単体の設計法や制御系の安定性などの理論体系を確立することができた.
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