研究課題/領域番号 |
20K14698
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
古居 彬 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (30868237)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生体信号解析 / 確率モデル / パターン認識 / 筋電位信号 / ベイズ学習 / 筋疲労 / 筋電義手 |
研究実績の概要 |
本研究では,筋電位信号の確率モデルに基づく新しい筋疲労評価法を構築し,筋の疲労状態に応じて適応的に動作を識別可能な筋電義手の開発を目的とする.これにより,長時間の義手使用に伴う筋疲労の影響に対してロバストな制御の実現を目指す.本研究の目的達成のために,(1) 筋電位信号から筋疲労を評価するための時系列確率モデルの構築,(2) 筋電義手パターン識別法の提案,(3) 逐次的な学習理論の導入,(4) 筋電義手制御システムの開発といった研究課題に取り組む.2020年度は,(1), (2), (4)に関連した研究を遂行した. (1) 確率モデルに基づく筋電位信号の解析に取り組んだ.計測実験によって取得した複数被験者のデータを利用し,筋電位信号の潜在的な分散分布として逆ガンマ分布を用いる妥当性を検証した.また,モデルパラメータと筋電位信号の確率的振る舞いとの間の関係性を回帰分析により調査した(IEEE EMBC, 2020). (2) 筋電位信号の確率的生成モデルに基づく動作パターン識別法を構築した.筋電位信号のモデルを有限混合分布に拡張することでモデルの表現能力を向上させるとともに,ベイズ推論に基づく学習則を取り入れることでモデルの複雑度を自動的に決定可能な仕組みを導入した.複数の筋電データセットを用いた精度検証実験により,提案法の有効性を確認した(国際学術雑誌に投稿中). (4) 新たな義手の制御モデルを構築した.筋の運動理論であるλモデルに基づき関節の平衡位置を動的に制御するモデルを開発し,筋電義手の制御に応用した.従来の義手制御モデルとの間で比較実験を行い,提案モデルの有効性を示した(IEEE ICRA, 2021).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では,筋疲労を評価するための逐次学習アルゴリズムの開発と評価を行う予定であった.しかしながら,新型コロナウイルスの感染拡大によりヒトを対象とする計測実験の実施が困難となってしまった.そこで,一部研究計画を修正し,元々次年度に行う予定であった筋電パターン識別器の理論構築と実装を行った.公開データベースを用いた解析実験により,提案識別器が一般的な機械学習手法に比べて優れた汎化性能を有することを示した.現在,この内容に関する論文を国際学術雑誌に投稿中である.また,過去に計測したデータを用いた基礎的な検証や,義手制御モデルの開発などを進めた.これにより,目標とする筋電義手制御システム実現へ向けた見通しを立てることができたため,おおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は引き続きパターン識別器の改良を行うとともに,筋疲労推定アルゴリズムの開発に取り組む.ただし,ヒトを対象とした計測実験については引き続き実施困難な状況が続くと考えられる.そこで,当該年度にはひとまず必要最低限のデータ収集を行い,筋疲労を逐次的に推定可能なアルゴリズムの開発・検証に利用する.また,筋疲労の推定アルゴリズムとパターン識別器の学習則を統合した新たな適応学習法の構築に取り組む.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度においては概ね計画通り経費を使用したが,若干の端数により次年度使用額が生じた.こちらについては次年度の研究計画にて物品購入費などと合算して使用する予定である.
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