本課題は次の3段階の目標を経て研究目的の達成を目指した.1.近接覚センサの出力を“仮想的な反力”として用いる非接触時の制御を実現しつつ,接触に至るまでを安定に制御する手法の開発,2.仮想的な反力に基づく制御と作業遂行のために必要となる制御の統合,3.仮想的な反力に基づく制御をロボット全身の制御へ拡張するために必要となる全身被覆可能な近接覚センサの開発. 目標1は,仮想的な反力をロボットの動作に反映させる手段にインピーダンス制御を利用することで達成した.インピーダンス制御は力制御の一種として研究されており,作業目的に沿った目標の動作を追従しつつ,接触力に対して柔らかに応答する制御である.一般のバネマスダンパ系の動特性に関する知見を用いることで安定な制御も実現しやすい.本課題では接触力の代わりに仮想的な反力を用い,衝突の瞬間の相対速度を減少させて衝撃力を緩和する制御手法を開発した.目標2については,仮想的な反力を用いる制御を脚ロボットに応用する手法を開発し,生物のように柔らかな着地を達成した.これにより,近接覚センサの出力を仮想的な反力とすることで,既存の力制御ベースの手法との組み合わせが容易になることを示した.目標3は,全身に被覆する上で問題となるセンサ素子数増加に伴う応答性の悪化に対し,演算回路を開発することで達成した.開発した演算回路は各センサ素子の出力から“仮想的な合力”を演算するものとした.これにより,等身大の産業用ロボットアームのリンク1つを132個のセンサ素子で死角なく覆いつつ,10kHzの高速応答性を有する近接覚センサを実現した. 最終年度には,a.衝突実験をせずに衝撃緩和制御の適切なパラメータを設計する手法の確立,b.衝撃緩和から把持力制御へ推移することで柔らかく物体を把持する制御手法の開発,などの応用的な研究成果を挙げ,続く研究への発展性を示した.
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