食品のロス低減や安全性確保のため,本研究では冷凍による長期保存および電界による高い殺菌効果を有する食品長期保存システムの開発を最終目標としている。本研究課題では,冷凍および電界を用いた本システム(以後,冷凍電界殺菌)の基礎特性を調査してきた。本年度(R4年度)では,凍結試料中の大腸菌殺菌に及ぼす試料インピーダンス(NaCl濃度および試料成分)の影響について調査した。前年度までの研究では,低濃度NaCl氷試料に対する冷凍電界殺菌効果を調査してきた。水産業への応用を考えた場合,高濃度NaCl(海水程度)氷試料での殺菌も必要である。そこで,冷凍および電界による高濃度NaCl氷試料中の大腸菌の殺菌効果を調査した。これまでの低濃度NaCl氷試料では,印加時間が1分あるいは10分の大腸菌の生菌率は同程度であった。一方,10分間電界印加後の高濃度NaCl氷試料中の大腸菌生菌率は,1分間電界印加後のものより低く,生菌率と印加時間に相関が示された。高インピーダンス(低濃度)の氷試料に直流電圧を印加すると,瞬間的に大きな電流が試料に流れた後,電流値は減少し,小さな電流が試料を流れ続ける。一方,低インピーダンス(高濃度)の氷試料では,ある程度の大きさの電流が試料に流れ続けるため,殺菌効果が高くなったと考えられる。次に,試料インピーダンスを同程度に調整して,試料成分が冷凍電界殺菌に及ぼす影響を検討した。その結果,凍結防止剤を添加した氷試料は無添加のものよりも殺菌され難いことが示された。また,殺菌効果を有するエタノールを氷試料に少量添加することで高い殺菌効果が得られることが示された。以上の成果より,同一成分試料での冷凍電界殺菌効果は主に試料に流れる電流値に依存すること,試料成分は冷凍電界殺菌効果に影響を与えることが示された。
|