研究課題/領域番号 |
20K14734
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高橋 拓海 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40844204)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大規模マルチユーザMIMO / ミリ波通信 / 確率伝搬法 / 繰り返し信号検出 / 低解像度ADC / 量子化雑音 / デジタルビームフォーミング / 物理層 |
研究実績の概要 |
5G Advancedや6Gでは、サイバー空間 (仮想空間) とフィジカル空間 (現実空間) を高度に接続するための無線空間を提供することが期待されており、大量の無線端末からデータ集約を行うための上り回線通信が重要な役割を担う。本研究課題では、このような通信形態を実現する物理層技術としてミリ波・大規模マルチユーザMIMO (Multi-Input Multi-Output) に着目し、その実現に際しての課題解決を目的とする。
昨年度成果である低解像度ADC (Analog-to-Digital Converter) 出力に基づく多次元信号検出手法の開発において、我々はBussgang分解を用いた確率伝搬法に基づく検出器を提案し、低演算量で高精度な信号検出が可能であることを示した。しかし、この手法は量子化ビット数が極端に少ない場合に性能が劣化する問題があった。そこで本年度は、量子化ひずみそのものを推定し、量子化された信号から量子化される前の観測信号を復元する手法をベイズ推論の枠組みで提案することで、性能改善が可能となることを明らかにした。さらに、昨年度までは信号検出のみに着目していたが、本年度は量子化器出力に基づく通信路推定についても検討を行い、昨年度の研究成果である通信路とデータの同時推定手法を量子化された観測信号に対しても利用できる形態へ発展させた。
また、別の昨年度成果として、受信機側でのフルデジタルビームフォーミングを前提としたビーム領域における部分空間周辺化法を提案したが、本年度は信号検出の低演算量化に着目し、ビーム領域のミリ波通信路の疎 (スパース) 性を利用する局所的線形フィルタ検出を検討した。従来法ではフィルタの次元縮小による性能劣化が避けられなかったが、複数の局所フィルタ出力を適切に合成することにより、計算量を低く抑えたまま検出精度を向上することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度までの研究計画では、量子化誤差の影響を抑圧するアルゴリズムの高度化と、ミリ波通信路のビーム領域でのスパース性を利用した通信路推定手法を検討することとなっていたが、これらの計画はいずれも完遂された。さらに並行して、局所的線形フィルタ検出の導入による信号検出法の低演算量化や、通信路とデータの同時推定手法への拡張についても検討を行った。また、スペースの都合上、実績概要には記載しなかったが、量子化ひずみの影響を緩和するための非線形制御を目的に、提案した確率伝搬法に基づく信号検出に深層学習を取り入れる検討も行い、一定の性能改善効果を確認することもできた。以上から、当初の計画以上に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度では、研究計画通り、上り回線のミリ波・大規模マルチユーザMIMO信号検出のための確率伝搬法に基づく統合的な受信機設計について検討を進める。具体的には、低解像度ADCによる量子化ひずみを考慮した上で、同時接続端末数が基地局受信アンテナ数と比較して十分に少ない場合と、同程度以上に存在する場合の2種類のシナリオを想定し、これまでの研究で得られた知見を統合した受信機設計と性能評価を行う。一つ目のシナリオでは、ビーム領域におけるミリ波通信路のスパース性を利用した低演算量化を中心に据えて、通信路推定とデータ検出の統合的な設計とその性能評価を行う。また、二つ目のシナリオでは、部分空間周辺化法のさらなる低演算量化を目指しつつ、空間多重数が非常に多いシナリオにおいても動作可能な受信機設計・評価を行う。さらに近年、メッセージ伝搬アルゴリズムの枠組みで、ミリ波通信における位相雑音や搬送波周波数オフセットの悪影響を抑制する手法も検討され始めており、これらの問題についても積極的に検討を進めていく。
また、本研究成果をより広く発信することを目的に、国外の研究者とも定期的に意見交換を行いつつ、積極的に国内外での成果発表を行いながら研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの感染拡大により国内外での学会・研究会がすべてオンラインでの開催となったため、旅費をほとんど使用しなかった。また、備品に関しても半導体の不足による機器の価格高騰と搬入遅れにより2021年度中に購入できないものもあった。一方で、2022年度には徐々に現地での学会開催が可能となることが予見されており、多くの国際会議では現地参加が強く推奨されつつある。一部保留としていたものも含めて研究成果の外部発表を予定しており、国内学会・研究会は勿論、国際会議でも数件の発表がすでに決定している。必要な登録料・旅費の確保のためにも次年度使用予算が生じた。また、総合評価へ向けた機材の購入を計画しており、年度前半には導入を予定している。予算使用年度は変更となったものの、可能な限り当初計画していた予算配分に基づいて使用する。
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