ネットワーク上の仮想空間と現実世界を高度に接続することが求められる未来社会において、大規模MIMO伝送技術は高速大容量・超多数接続・高信頼低遅延を実現する中核技術である。なかでも、5Gで導入されたミリ波帯を利用するミリ波大規模MIMOが注目を集めているが、その潜在能力を十分に引き出すためには克服すべき課題が数多く残っている。本研究では、上り回線のミリ波大規模MIMOの受信機設計に着目し、ベイズ推論を軸に低演算量かつ高精度な信号検出アルゴリズムを開発した。 2020年度には、ミリ波通信路が有する低ランク性や、角度領域におけるスパース性を利用した信念伝搬法に基づく信号検出アルゴリズムを設計した。この性質を利用した部分空間周辺化法や局所的線形フィルタ検出を提案し、その低演算量化に貢献した。 2021年度からは、基地局の省電力化と低コスト化を目的とした低解像度ADC (Analog-to-Digital Converter) の利用に着目した。Bussgang分解を用いた量子化信号の線形表現に基づいて信念伝搬を設計し、非線形の量子化ひずみの補償手法を開発した。通信路推定にも着手し、検出したデータ信号を等価的なパイロット信号として利用することで推定精度を向上できるJCDE (Joint Channel and Data Estimation) 手法をベイズ推論の枠組みで設計し、その有効性を確認した。 最終2022年度には、これまでに得られた知見を統合・発展させ、様々な成果を得た。例えば、局所的線形フィルタ検出は、その出力値を適切に合成することで計算量を低く抑えたまま検出精度を改善できた。他にも、低解像度ADC出力のひずんだ信号に基づいてJCDEアルゴリズムを設計することで、セルフリー大規模MIMOのような他の通信形態においても高性能な受信機を開発できることを確認した。
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