細胞を力センサに応用することで,全く新しい力センサとして生物の力学的特性測定に応用できると考えた.細胞を用いた力測定方法として,我々はFluorescence Resonance Energy Transfer(FRET)に注目した.本研究の目的は,細胞を使用した微小サイズの力センサを用いて,マイクロニュートンからミリニュートンレンジでの力測定を大気中で行うことである.そのために,FRET機能導入細胞を力測定に利用できるか確認した.具体的には, FRET機能を導入した細胞が表面に接着した非生物構造体を,外力を用いて変形させ,変形した際のFRET比を解析することで,構造体にかかった外力の大きさを評価した. 先ず,細胞に対するFRET機能遺伝子導入条件の検討を行った.結果,哺乳類細胞(ラット平滑筋細胞:A7r5)と両生類細胞(繊維芽細胞:XTC)に対する効率の良い遺伝子導入条件を明らかにし,FRET機能遺伝子の導入に成功した.また,FRETを観察するために専用の観察システムを構築した.更に,FRET機能遺伝子導入細胞と構造体(PDMSチャンバ)に引張刺激を与えるための引張試験システムを開発した.そして,PDMSチャンバ内で培養したA7r5細胞に引張試験システムを用いてひずみを与え,この時の細胞の蛍光観察を行った.そして,チャンバに与えたひずみに応じて細胞も歪んでいることが確認できた.センサ,コントロール共に引張刺激によってFRET比が上昇していることが確認された.これは,FRETの挙動としては不自然であるが,本結果が退色の影響によるものでないことが考えられた.このことから,今回はFRETによるひずみ量評価は行えなかったものの,FRET以外の効果によっても細胞や構造体のひずみを蛍光観察によって評価できる可能性が示唆された.
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