研究課題/領域番号 |
20K14763
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
岡野 訓尚 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (80778209)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ネットワーク化制御 / センサ配置 / センサ選択 |
研究実績の概要 |
本研究では,ネットワーク化制御システムにおいて通信される情報の量と質(価値)を制御工学の観点から定量化し,制御則に加え通信則も設計対象とした制御手法の確立を目指す.本年度は,システムの出力をネットワークを介して収集し状態推定する問題を対象に,多次元のシステム出力のうち,どの情報を伝達することが状態推定に有効かとの視点から下記の成果を得た. 1 最適センサ配置問題における貪欲解の性能保証:多次元の出力信号のうち,ある出力を観測するか否かの2択とし,観測可能な出力数の制約を満たしつつ状態推定誤差を最小化する出力の組を求める問題を考えた.これは効率的に最適解を得る手法が見つかっていない問題であり,貪欲法が有力な近似解法として知られている.本研究では,貪欲法によって得られる解(センサ配置)で達成可能な状態推定誤差の期待値について,最適解との差を理論的に保証する結果を得た. 2 誤り訂正符号とペイロードの割合を動的に変更する通信則:一定ビット長の通信パケットを構成する際に,誤り訂正符号長を大きくするとパケットロスを抑制できるが伝達可能な情報量が小さくなる.両者の割合を状態推定誤差が小さくなるように毎ステップ決定する方法を提案した.限られたペイロードに格納する出力信号の優先順位は,1で述べた最適センサ配置問題に関連する結果をもとに決定している.数値実験を行い,割合を固定した場合に比べ推定精度が向上することがわかった. これらの結果は計測自動制御学会制御部門マルチシンポジウム,IEEE Conference on Decision and Controlなどで発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
システム制御の問題において情報の価値に焦点を当てることで新たな成果,問題を発掘できた.実績の概要で述べた成果1では,最適センサ配置問題に取り組むことで,観測する出力の選択がどのように状態推定誤差の低減に寄与するかについて知見を得ることができた.成果2では,通信パケットの構成を設計対象とすることで従来より高い性能が達成できることが数値的に確認でき,おおむね期待通りの結果を得られた.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果をもとに,以下の項目に取り組む. 1 観測する情報の種類の選択:本年度は状態推定問題において推定誤差の低減に寄与する情報の選択を扱ったが,これをもとに制御問題を考える.解析手法を情報の流れがループを成す場合に発展させることが課題となる. 2 情報量の最適化との統合:通信情報量と制御性能の関係は,ネットワーク化制御の分野でData-rate theoremとして一連の研究成果が知られている.これらの結果と本研究で取り組んできた観測する情報の種類の最適化の成果を統合し,通信則の最適化についてより自由度の高い問題設定に取り組む. 3 情報の通信タイミングの設計:本年度は主に一定時間間隔でサンプリングと通信を行う離散時間システムを対象としていた.これに対し,出力が特定の条件を満たしたときにだけ通信を行うイベントトリガ制御機構を用いると,通信回数を低減できることに加え通信タイミングから出力に関する情報を取り出すことができる.このアイディアに基づき,通信タイミングも通信則の設計対象に含め,より低情報量で制御・状態推定を行う手法を考案する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の影響で,参加した学会のすべてがオンライン開催となり,旅費の支出が予定より少なくなった.次年度後半は対面開催の可能性があることからその旅費に充てる.その他,実験用計算機とハードウェアの購入と論文をオープンアクセス化する費用として計上する.
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