人が行う意思決定は,機械システム側から見ると,あいまいで非線形性を有している.それによって引き起こされる現象が,人にとっての不快感や作業結果としての不利益などにつながり,人―機械協働のための制御系の設計を難しくしている.そこで,システムの効率性などの性能だけでなく,人が感じる快適さなどの価値も取り入れた制御,すなわち人に寄り添う制御の理論体系の構築を目指すことを,本研究の目的としていた.そのために,(1)制御モデルの構築,(2)モデルの統合と理論的な解析,(3)協働ロボットを用いた検証,これらの3つの内容を遂行していく計画であった. これまでの研究期間で,主に(1)の制御モデルの構築と(2)モデルの統合と理論的な解析に関して検討を進めた.人が直接操作する量の情報に加え,その人の周囲を取り巻く環境の情報をセンシングして統合を図るモデルによって人に寄り添う制御系の構築をするために,最適制御に基づく人や機械などの多エージェントによる協調制御や,外乱オブザーバーなどを援用したアシスト制御などの枠組みについて検討を行なった.この結果について,人と機械システムによる協調搬送を例に考え,数値計算によるシミュレーションで,検討した制御方法に関しての有用性を検証した.一定の効果が示唆された.また,仮想拘束を利用した制御手法についても検討し,環境場面に応じた制御方策の変更によって,スムーズな人と機械の協働の可能性について,シミュレーションによって検証を進めた.(3)協働ロボットを用いた検証についても,実験装置の開発や環境の整備を行い,基礎的な検討を行ったが,有効性の評価に向けて今後も継続した実験検証が望まれる.
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