最終年度はSrTiO3を用いた(111)配向磁気トンネル接合(MTJ)について計算した結果を掘り下げ、またそれを論文としてまとめることに重点を置いた。前年度にCo/SrTiO3/Co(111)およびNi/SrTiO3/Ni(111)で見出した高いトンネル磁気抵抗比(TMR比)がこれらの系のバルクのバンド構造、すなわちfcc-Co(fcc-Ni)とSrTiO3のラムダラインのバンド構造で理解できることを明らかにした。以上の結果をまとめた論文は投稿から1か月程度でPhysical Review B誌に掲載された。 研究期間全体を通じて、これまでほとんど理論的に研究されてこなかった新規(111)配向MTJの輸送特性が本研究を通じて徐々に明らかになってきたように感じている。これまで理論研究が盛んになされてきた(001)配向MTJでは、強磁性電極および絶縁体トンネルバリアのバルクのバンド構造で高いTMR比の発現が説明されてきた。一方で本研究で最初に着手したMgOをトンネルバリアとする(111)配向MTJでは、左右両界面の化学結合により特徴的な界面状態が形成され、これらが共鳴を起こすことで高いTMR比が誘起されることが明らかになった。またSrTiO3をトンネルバリアに用いたMTJでは従来と同様のバルクのバンド構造由来のTMR効果が発現することも明らかになった。これらの結果は新規(111)配向MTJの多様性を示すものであり、これらの研究成果を通じてMTJに対する物理的な理解をさらに深めることができたと感じている。
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