研究課題/領域番号 |
20K14787
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
照月 大悟 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任助教 (40821921)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 薄膜トランジスタ / 匂いバイオセンサ / 嗅覚受容体 / 昆虫細胞 |
研究実績の概要 |
近年、匂い物質の検出に基づく、環境モニタリングや危険物質の検出を行う技術へのニーズが高まっている。本研究では、昆虫嗅覚受容体を発現したSf21昆虫細胞(センサ細胞)と液晶技術に基づく薄膜トランジスタ(Thin-film transistor; TFT)を融合することで、匂い物質の高感度測定とパターン計測が可能な匂いバイオセンサ構築を目指す。 2020年度は、匂い刺激時の液面の揺れと流路内への気泡侵入の抑制を両立する、閉鎖型灌流カートリッジを3Dプリンタによって開発した。センサ細胞と電気デバイス(TFTなど)を融合した匂いバイオセンサでは、液体の匂い物質を有機溶媒を介してアッセイバッファに溶解したサンプルによって匂い刺激を行う。センサ細胞に匂い刺激を行う際に、匂い物質がアッセイバッファに拡散することを防ぐため、匂い物質の前後に気泡を挟んで送液を行う。しかし、気泡の侵入は細胞の脱離やノイズの要因となるため、検出部に到達する前に除去する必要がある。そこで、センサ細胞の匂い応答検出に適した閉鎖型カートリッジの構築を進めた。構築したカートリッジは、広い流路に基づく効率的な気泡の除去が可能となる。これまでに、カートリッジ内にキイロショウジョウバエの嗅覚受容体であるOr13aを発現したセンサ細胞(Or13a細胞)を配置して、蛍光顕微鏡下でカルシウムイメージングを行うことにより、Or13a細胞の匂い応答検出が可能であることを確認した。本研究成果については国際誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、当初の計画通り、液面の揺れと気泡の侵入を抑制しながら匂い刺激を可能とする閉鎖型灌流カートリッジの構築に成功した。設計したカートリッジの重要な特徴として、広い流路に基づく気泡除去機能を備える点が挙げられる。既存の細胞イメージング用閉鎖型チャンバーは気泡除去能力を持たず、気泡を防ぐために何らかの前処理が必要となる。構築したカートリッジは折れ曲がった流路とフラットな流路構造を組み合わせ、効率的な気泡除去が可能である。液体の匂い物質でセンサ細胞を刺激する際には、電気デバイス、蛍光顕微鏡を用いたカルシウムイメージングを問わず、気泡除去が安定した計測に重要となるため本成果の意義は大きい。この研究成果については、オープンアクセスの国際誌に掲載された。以上より、2020年度は想定通りの達成度を得たと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は、既に所有するTFTデバイス基板上にセンサ細胞を播種して、その匂い応答を電気信号として取得することを主な実施内容とする。電気信号の効率的な検出が可能な、電極上への適切な細胞播種量の検討等を進める。2020年度に構築を実施した閉鎖型灌流カートリッジについては、蛍光顕微鏡下に設置してカルシウムイメージングによって匂い応答の評価を進めてきた。今後の研究では、TFTデバイス基板上に設置可能なカートリッジ構造を検討し、電気信号による匂い応答検出と合わせて適切な構造を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、新型コロナウイルスの影響によってクリーンルームでの作業を実施しなかったため、想定した人件費・装置使用費を使用しなかった。また、2021年度についても、引き続き新型コロナウイルスの影響が想定されるため、想定する国内・国際学会ともにオンライン実施の可能性が高い。そこで、デバイス試作費や論文誌への投稿を優先して助成金を使用する予定である。
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