令和5年度には,令和4年度までに構築した「耐荷機構の耐力予測モデル」に基づき,本研究の最終的な目標であるFRPシートにより補強された劣化部材の耐力予測式を構築することを主な目的として研究を推進した.部材の状態に応じた合理的な耐力予測手法を構築する観点から,アーチ機構とビーム機構の重ね合わせに基づく耐力予測式の開発を進めた.予測式の開発に際しては,部材の状態に応じたコンクリートやせん断補強材の抵抗力寄与分に関する耐荷機構上の分類を明らかにする必要を生じたが,有限要素法に代表される離散的な数値解法ではこのような分類を明らかにすることは本質的に困難であることから,耐荷機構の耐力予測モデルに基づき荷重変位関係を予測する新たな数理モデルを解析的手法により構築した. 構築したモデルを適用して耐荷機構の推移を計算した結果,斜めひび割れ発生荷重はビーム機構の耐力で表されること,終局時のせん断耐力はコンクリートにおけるアーチ機構寄与分,せん断補強材の軸方向力に起因するアーチ機構寄与分,せん断補強材のダウエル力に起因するビーム機構寄与分もしくはビーム機構の耐力の和により表されることをそれぞれ明らかにした. 以上の成果に基づき耐力予測式を構築するとともに,研究期間全体を通じて実施した載荷実験の結果に対してその精度を検証した結果,健全な部材に対しては既存の設計指針類に記されている耐力予測式より高い精度で予測可能であることに加え,FRPシートにより補強された部材,模擬劣化部材,FRPシートにより補強された模擬劣化部材に対しては健全な部材に対する精度と同程度の精度で予測可能であることを確認した.これまでの研究成果により,補強された劣化部材を対象とした統計的手法に依存しない耐力評価式の構築に至ると同時に,せん断耐力評価手法の理論化にも成功した.
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