研究課題/領域番号 |
20K14814
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
関屋 英彦 東京都市大学, 建築都市デザイン学部, 准教授 (60743309)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 疲労損傷 / 鋼橋 / 圧電素子センサ / MEMSセンサ / 維持管理 |
研究実績の概要 |
鋼橋に生じる疲労損傷は、目視点検においても発見が困難な上、脆性破壊を引き起こす危険性があり、適切な維持管理が必要である。疲労損傷は発生初期の段階で発見することにより、簡易的な処置にて対応できるケースが多いため、疲労損傷に対する維持管理を効果的かつ経済的に行うためには、疲労損傷の発生を早期に検知することが重要である。実験室内における疲労試験では、疲労き裂の発生および進展を検知するため、疲労き裂が発生する溶接部近傍に箔ひずみゲージを貼付し、外力によるひずみ応答を計測することがある。しかし、箔ひずみゲージは消費電力が高く,実橋梁における長期計測では電源の課題が生じる。また、供用中の橋梁には車両走行によるランダムな外力が作用するため、実験室内における疲労試験とは異なり、外力の大きさが一定ではない。そのため、ランダムな外力が作用する環境下においても適用できる疲労損傷の検知システムを構築する必要がある。 そこで、本研究では、センサ部における電力消費の無い圧電素子センサを活用しつつ、ランダムな外力が作用する環境下においても適用できる疲労損傷検知システムの開発を進めている。2020年度は、ランダムな外力が作用する供用中の実橋梁における現場計測を実施し、圧電素子センサを用いて計測した応答から疲労損傷の発生および進展の検知が可能であるかを検証した。そして2021年度は、車両走行による橋梁の低周波数帯の応答に着目し,MEMSセンサ1台のみによる変位計測手法を検討した。この手法により従来まで3台必要であったMEMSセンサが1台のみとなり、システムの簡易化が可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、ランダムな外力が作用し、様々な周波数帯域の応答が同時に生じる条件にて圧電素子センサの計測精度を検証した。その結果、ランダムな外力が作用し、様々な周波数帯域の応答が同時に生じる環境であっても圧電素子センサにて疲労損傷の発生および進展を検知するための応答が計測できることが明らかとなった。また、異なる箇所においても圧電素子センサにより活荷重に対する応答が計測できることを確認した。 そして2021年度は、ランダムな外力情報(車両重量)として活用するための変位応答を簡易に算出する手法について検討した。具体的には車両重量による橋梁のたわみ成分は主に1.0Hz以下の低周波数帯であることに着目することにより、加速度から変位を算出する際の積分範囲の決定を行い、算出した変位の精度検証を実施した。算出した変位は、精度検証を目的に設置した接触式変位計にて計測した変位と良い一致を示した。この手法により従来まで3台必要であったMEMSセンサが1台のみとなり、システムの簡易化が可能となった。さらに、2020年度に実施した活荷重に対する圧電素子センサの計測安定性を検証するため、複数台の車両走行に基づくデータ分析を実施した。分析の結果、バラつきが生じるものの、疲労損傷の検知に活用できる可能性を示した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究にて、ランダムな外力が作用し、様々な周波数帯域の応答が同時に生じる環境下においても圧電素子センサを用いて、疲労損傷の発生および進展を検知するための活荷重に対する応答の計測が可能であることが分かった。そして、2021年度の研究にて、車両走行時の低周波数帯の応答に着目することにより、MEMSセンサ1台のみで加速度から変位を算出する際の積分範囲を決定し、加速度から変位を算出できることが分かった。この研究成果により、疲労損傷の検知システムの簡易化が可能となる。 そこで2022年度は、2020年度に検証した圧電素子センサによる活荷重に対する応答計測技術と,2021年度に検証したMEMSセンサ1台のみを用いた変位計測技術を組み合わせることによって,ランダムな活荷重が作用する実橋梁に適用でき,省電力かつ簡易な疲労損傷検知システムを構築し、その検知性能を検証する。MEMSセンサを用いて計測した変位を外力の大きさに相当する情報として活用することにより、ランダムな外力が作用する環境下においても適用可能なシステムとなる。また、鋼橋において疲労損傷が生じる箇所は多数存在するため、異なる構造や異なる部位での現場計測を実施し、提案システムの実用性や汎用性を検証する。
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