研究課題/領域番号 |
20K14823
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
岩井 裕正 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80756908)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海底地すべり / 津波振幅 / クリープ地すべり |
研究実績の概要 |
海底地すべりの主な発生原因である過剰間隙水圧の上昇に着目し,海底地すべり運動およびそれに伴い発生する津波振幅について模型実験による検討を行った.具体的には,水中に難透水層を有する低角度の砂地盤を形成し,斜面底面から水圧を与えて地すべりを発生させる模型実験を実施し,地すべり運動およびそれに伴う水位変動をPTV解析により計測した.特に,沿岸における津波遡上量を表現できるとされる初期の水位低下量(初期ドローダウン)に着目して検討を行った. 地すべり開始時の加速に伴い初期ドローダウンが発生していることを確認した.この初期ドローダウンは,地すべりの初期速度の大きさではなく平均初期加速度に比例することが示された.つまり,初期速度が比較的小さくても短時間で加速する場合には,津波振幅が大きくなることを明らかにした.同様の実験を地すべり土塊の層厚を変えて実施したところ,同じ程度の初期加速度が発生した場合の津波振幅は地すべり土塊の層厚に線形比例することが分かった. さらに,すべり土塊の運動形態がその速度時刻歴の特徴から3パターンの運動形態に分岐することを示した.この分岐現象について支配的なパラメータを抽出するために,非線形摩擦則を考慮した地すべり運動の支配方程式に対して線形安定解析および数値解析を実施した結果,模型実験で得られた3パターンの運動形態と支配方程式の解の分岐パターンが対応していることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,海底地すべり運動およびそれに伴い発生する津波振幅について模型実験による検討および,地すべり運動の分岐現象に関する理論展開を行った.模型実験においては,海底地すべり運動が大きく3つの運動形態にパターン分岐することを明らかにした. 当初は,難透水層下に発生する流体圧および水の流出入量などの水理学的特性と水膜形成条件について一次元コラム実験を通して定性的に把握した後に斜面模型実験を実施し,過剰間隙水圧の上昇と海底地すべり運動の因果関係を把握することを目標に掲げていたが,準備状況から斜面模型実験を先に実施した.初期に与える過剰間隙水圧の大きさによって地すべり開始時の加速挙動が異なる現象を観察することに成功した.また地すべり進行過程において地すべりが途中で停止する場合もあれば,大規模な地すべりに進展する場合も観察され,地すべり運動がいくつかのパターンに分類される可能性を見出した.特に大規模な地すべりに至る場合では,速度一定の定常状態を経た後に地すべり速度が急加速し,やがて大規模にすべるという,クリープ性地すべり挙動を示すことが明らかとなった.本研究で掲げた,海底地すべりの運動を時系列的に捉えるという目的の一つを達成できた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,難透水層下に形成される水膜の観察に努める.昨年度は主に,地すべり土塊の運動についての観測に注力し,出現しうる地すべりパターンについて検討を行った.しかし,すべり面である難透水層下の水膜の存在やその平面的な分布についての観察には至っていなかった.水膜が形成される領域と海底地すべり運動の因果関係を捉えることができれば,海底地すべりが大規模化する条件を抽出することが可能となる.さらに,海底地すべりによって励起される津波の特性についても継続的に検討を行う.昨年度明らかにした海底地すべり運動の各パターンと津波振幅特性の関係をより詳細に把握することが目的である.特に,海底地すべりが大規模に発生する場合,津波振幅も増幅されることが予想される.前述の海底地すべり大規模化に寄与する地盤パラメータを明らかにしつつ,これと併せて津波振幅の増幅効果についても検討を進めることで,海底地盤の力学的な特性から津波危険度評価に結び付けることが可能になることが期待される.
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