近年、地震を経験し変形を生じた後に強い雨によって崩壊に至る石積壁・石垣が多数見られ、地震後の変形量とその後の浸透時の耐久性を評価する手法が必要である。本研究では、研究代表者が開発してきた離散体-連続体の相互作用解析技術に地盤の浸透-変形連成理論を融合・発展させ、地震による擁壁の変形から再度の地震または降雨といった次の外力による崩壊に至るまでの挙動を一連の流れで解析する技術を開発した。 令和4年度は、前年度に開発した、地盤の大変形挙動まで表現可能な地盤-石積構造物間の相互作用解析手法であるMPM-DDAの石垣の地震応答解析への適用と浸透-変形連成解析への拡張を進めた。まず、MPM-DDAの石垣の地震時挙動評価への適用性を検証するため、既往の振動台実験の再現解析を行った。その際に、地盤材料のひずみ軟化挙動を考慮した弾塑性構成則をあらたに導入することで、背面地盤に明瞭な亀裂を伴って崩壊する石垣模型の挙動を定量的に再現することができた。 つづいて行ったMPM-DDAの浸透-変形連成問題への拡張に当たっては、有限差分法(FDM)による非圧縮性流体解析とMPMを連成することで地盤と水の間の相互作用を考慮した手法を開発した。土の内外の水の流れを統一的に表すDarcy-Brinkman式をFDMで解き、得られた流体圧力をMPMにおける間隙水圧として与えることで、浸透に伴う地盤の変形をシミュレート可能にした。この際、FDMにVOF法を組み合わせることで自由表面の位置の変化を考慮することで地盤外部から内部への水の浸潤過程も解析可能にした。当該手法の妥当性検証は矢板周りの浸透破壊解析や、飽和した土砂の流動実験の再現解析により検証した。 前年度までの研究を含め、以上の成果によって、石積壁の地震と降雨のマルチハザード下での挙動が評価可能になった。
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