研究課題/領域番号 |
20K14843
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐津川 功季 東北大学, 情報科学研究科, 助教 (40867347)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動的交通量配分 / 粒子モデル / Nash均衡 / ゲーム理論 |
研究実績の概要 |
本課題では,情報通信技術などの新技術導入による個々のドライバの挙動変化が交通システムに与える影響を解析するための基盤理論を構築する.そして,交通システムを安定化・効率化する交通制御への知見を得る. まず,前年度でも構築した道路ネットワーク上の動的交通流をドライバの戦略的な経路選択行動から解析する理論を,確率進化ゲーム理論の観点から再整理・定式化した.整理を通して,本研究で構築した理論やその解析結果について,交通の周辺分野であるゲーム理論やOR分野の知見との繋がりを明らかにした. また,交通システムを最適化する制御とドライバの自然な行動選択から生じる均衡状態とのギャップを,安定性の観点から再分析した.具体的には,動的ネットワーク流では待ち行列の存在により一般に複数の最短経路が存在するため,均衡状態が不安定化しやすいことを指摘した.不安定性はドライバが常に効用を改善しようとする行動をとる,あるいはそう行動するように誘導・制御すれば解消されることを明らかにした.しかし一方で,最適化の観点からは,この不安定性はシステムが局所最適から抜け出すことを可能とする揺らぎとも解釈でき,実際にドライバ全員の旅行時間は改善されうることを示した.交通状態の改善過程では揺らぎを許容しながら効率的な状態を探索し,発見したら効率的な状態を安定化するような制御が望ましい. さらに,ドライバの出発時刻選択を考慮した発展的な解析に関する研究をおこなった.ここでは,定式化や制御に向けての知見を得るために,ドライバを流体近似したフローとして取り扱う伝統的な出発時刻選択問題について,均衡状態とシステム最適状態の特性を解析した.その結果,ドライバの効用を均衡状態から変えることなく,混雑課金の導入によりシステム最適を実現できうることが明らかとなった.この知見をベースに個別ドライバ下での制御法を考察することが求められる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基本的には問題なく進行している.前年度で構築した理論モデルの精緻化や整理により関連分野との結びつきを明らかにした点は,今後の均衡・最適状態の特性解析や効率的な数値計算法開発にも資するものと考えている.また,出発時刻選択など理論モデルの拡張にも,基礎的ではあるが着手できている.そのため,おおむね順調に進展していると判断する.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,進捗状況に記した予備的研究を発展させるつもりである.具体的には,経路選択に加え,個別ドライバの出発時刻選択などを考慮した交通ネットワーク流問題を定式化し,その動学的性質を解析する.また,ドライバの効用変化を想定しながら,システムを最適化しながらかつ受容性のある制御について考察する.なお,これまでの研究ではドライバを個別に取り扱うことを前提としているが,動学的性質の更なる解析にあたっては,こうした交通流のミクロ的基礎から集計的なフローを近似的に導出することやそのフローの挙動を解析するなど,マクロ変数との結びつきを明らかにする方法も有望であるとも考えられるため,進捗に応じてこれらの研究にも着手する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度に国内外の関連分野の研究者との打ち合わせや,国際シンポジウムへの参加のために複数回の出張を予定していたが,社会情勢の変化により不可能となり旅費が発生しなかった.また,計算機の購入を予定していたが所有している計算資源の観点から見合わせて,次年度に回すことにした. 次年度は国外への出張は困難であるが可能と予想されるため,未使用額はその経費に充てることとしたい.
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