本研究は、時間的に展開する視覚刺激が記憶の書き換えに影響を及ぼす「Paramnesia効果」に着目し、歩行者を対象としてParamnesia効果が発現することを実証的に示すものである。最終年度はParamnesia効果として検索誘導性忘却ならびに検索誘導性促進に検討対象を絞り、歴史的建築物群を実験に用いる刺激とし、両者の発現要因を室内実験により検証した。具体的には、学習時に歴史的建築物群とした和風建築物と和洋折衷建築物の記憶の統合をしない場合は、和洋折衷建築物の再認率がベースラインと設定する一般建築物の再認率より低くなる、すなわち検索誘導性忘却が発現すること、学習時に和風建築物と和洋折衷建築物の記憶の統合をする場合は、和洋折衷建築物の再認率が一般建築物の再認率より高くなる、すなわち検索誘導性促進が発現することの2点の仮説を措定し、同仮説を検索経験パラダイムに基づく再認課題により検証した。実験の結果、上記の2点の仮説を支持する結果が得られた。このことは、和風建築画物と和洋折衷建築物には適度な類似性があるが故に、和風建築物の検索を実施すると、和洋折衷建築物を思い出すことが難しくなる検索誘導性忘却が発現すると解釈された。一方で、記憶の統合により和風建築物と和洋折衷建築物の類似性を過度に高めることで、和洋折衷建築物に検索練習効果が生じ、和洋折衷建築物を思い出しやすくなる検索誘導性促進が発現すると解釈された。
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