飲み水の安全性は,水源を清浄な水域に求めることを前提として,限られた数の水質基準項目について監視・制御することにより確保されれている.しかし,水の循環利用においては,水源は下排水やその処理水であることから,この前提が成り立たない.特に,都市下水由来の水は,新興汚染物質のほか,処理過程で生じる副生成物や微生物代謝物など,既知・未知の化学物質が自然由来の溶存有機物質や無機成分と混ざり合い複雑なマトリクスを織り成している.下水再利用においては未規制化学物質の制御・監視が重要となる.本研究では,下水再利用システムにおいて制御・監視対象となる微量化学物質の優先づけのため必要な知見を得ることを目的として,下水由来溶存有機物の特性解析とヒト細胞への作用機構の解明に取り組んだ.実下処理水中の疎水性有機物を酸性(HOA),塩基性(HOB),中性(HON)に分画し,17β-Ethynyl Estradiol (EE2) ,17ß-Estradiol (E2),Estron(E1)との複合的な細胞毒性影響をマーカー遺伝子の発現変動により検討した結果,いずれの画分においても化学物質の有する毒性影響が軽減される可能性が示唆された.また,水晶振動子マイクロバランス法(QCM)を用いた下水由来有機物の吸着量の評価において,HOB > HON > HOAの順で対象化学物質への吸着量が多いことがわかった.以上の結果から,微量化学物質の優先づけを行う上で,処理水マトリクスと化学物質の複合作用の重要性が明らかとなった.
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