研究課題/領域番号 |
20K14860
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大城 賢 京都大学, 工学研究科, 助教 (00601569)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 気候変動緩和 / エネルギーシステム / 統合評価モデル / 脱炭素社会 / パリ協定 / エネルギー政策 |
研究実績の概要 |
初年度は、(1)世界全域を対象としたエネルギーシステムモデルの開発、(2)日本を対象に急速な温室効果ガス排出削減に伴う技術普及速度の分析・政策評価を行った。 (1)エネルギーシステムモデルは、これまで開発してきた日本1地域モデルを基盤に、世界全域(33地域区分)への拡張を行った。その際、日本1地域モデルでは外生的に扱っていた化石燃料採掘、エネルギーキャリアの国際輸送を内生的に扱うことができるようモデルを拡張した。それを用いて、アジアを対象に、パリ協定の2℃目標に応じた2050年までのシナリオ分析を行い、設備の耐用年数前に除却が必要となる技術(座礁資産)の定量化を行った。その結果、2℃目標シナリオでは炭素回収貯留(CCS)なしの石炭火力発電は2050年までにすべて座礁資産化することが示された。他方で、2030年の削減目標を強化することで、座礁資産の量をおよそ半減できることを明らかにした。 (2)日本を対象に、急速な温室効果ガス排出削減に伴う技術普及速度への影響分析・政策評価を行った。その際、エネルギー供給・需要部門の両方について、座礁資産の定量化および技術政策による効果を分析できるようモデル改良を行った。結果として、急速な排出削減を伴うシナリオ下では、発電等のエネルギー供給部門だけでなく、民生部門にて化石燃料を消費する熱源機器も座礁資産化する可能性があることを明らかにした。ただし、電気ヒートポンプ機器などの低炭素技術への補助金等の技術政策を、炭素への価格付けに加えて補完的に講じることで、需要部門の座礁資産を約3分の1低減できることを示した。 これらの成果は、技術普及の観点から環境研究としての新たな知見を提示したとともに、炭素税や技術補助金といった今後の気候変動政策への示唆としても有意義であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エネルギーシステムモデルの開発については、当初2年目に予定していた世界全域への拡張まで着手した。また、技術普及モデルの開発のうち、座礁資産の定量化に関しては、日本を対象に政策強化ケースの分析までを先行的に実施したことから、これらの点については当初予定よりも進展しているといえる。ただし、技術普及速度の評価は座礁資産の評価の側面に留まっており、モデル自体の改良や世界全域への拡張は2年目以降の課題となっていることから、総合的にはおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
世界エネルギーシステムモデルについて、諸政策や革新的技術の効果を分析できるようモデルの開発を進める。具体的には、本研究の対象である世界CO2ゼロ排出の達成に寄与し得ると考えられる、水素エネルギーキャリアやそれを用いた合成炭化水素、直接空気回収(DAC)などである。技術普及速度の分析については、初年度に日本を対象に実施したモデル改良を世界全域に拡張する。
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