研究課題/領域番号 |
20K14861
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中西 智宏 京都大学, 工学研究科, 助教 (90824293)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 生物活性炭 / 微生物的安定性 / 高度浄水処理プロセス / 漏出微生物 |
研究実績の概要 |
我が国の都市部の主要な浄水場では、オゾン処理と生物活性炭(BAC)処理を主要単位操作と する高度浄水処理プロセス(凝集沈殿、急速砂ろ過、オゾン、BAC、塩素消毒)が採用され ている。これはオゾンによって酸化分解された有機物をBAC層内の微生物代謝によって除去できるため微量汚染物質等の除去には有効だが、処理過程で必然的に微生物の繁殖を助長しているとも考えられ、微生物の漏出に注意する必要がある。本研究は高度浄水処理プロセスにおける微生物的安定性を向上させることを見据えて、BAC層からの微生物の漏出が水道水中の微生物群集に与える影響を把握することを目的としている。 BAC層の細菌は微小な活性炭粒子に付着して漏出する可能性や、自由生活性アメーバ等の微小動物の内部に取り込まれた状態で漏出している可能性が考えられる。そこで令和2年度はまず漏出細菌の存在形態を把握することを目的とした。高度浄水処理プロセスを採用する実浄水場においてBAC池出口の水をプランクトンネットでろ過し、微小粒子をネットに捕集して顕微鏡観察、一般細菌/従属栄養細菌の培養などを行なった。その結果、ワムシや線虫といった動物プランクトンが確認され、その体内に細菌が存在する様子が確認された。さらに、動物プランクトンに塩素処理(遊離残留塩素濃度10 mg/Lで4分間接触)を施した後でも体内細菌の多くが培養能を維持していることがわかった。これより、BAC由来の動物プランクトンが体内の細菌を塩素消毒から保護することで、浄水中の生菌叢に影響を及ぼしている可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では残留塩素の存在下でも「生きている」細菌群集を網羅的に検出するため、水中の16S rRNAを逆転写してから超並列シーケンサーで配列取得する方法を確立する予定であった。しかし、浄水や活性炭処理水中のバイオマス濃度が想定以上に低い等の理由によりRNAの回収が難しく、適切な前処理条件の決定には至らなかった。 ただし、研究目的の達成には本手法が必須というわけではなく、上記のように活性炭処理水中の漏出細菌の存在形態を明らかにすることで一定の進捗は得られていると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
生菌を対象とした網羅的検出手法に関しては、まず浄水や活性炭処理水の濃縮量を増やしてRNAの回収量を向上させることに取り組む。本手法が確立できれば、BAC由来の動物プランクトン内部に存在する生菌を網羅的に検出・同定し、塩素消毒後の生菌群集と比較する。これにより、BACが浄水中の生菌群集に及ぼす影響を把握する予定である。一方、必要な量だけRNAを回収できない場合は予定を変更し、従来の16SrRNA遺伝子解析(死菌も一部含む網羅的検出手法)に切り替える等の柔軟な対応をとる。 また、漏出微生物の影響を軽減するための浄水処理方法についても検討する。具体的には、BAC前段のオゾン処理条件、BAC層の塩素洗浄頻度、活性炭材質、塩素処理条件などに注目し、浄水場での工程水の分析、あるいは必要に応じて室内実験も組み合わせて、処理条件が漏出微生物の挙動や増殖に与える影響を把握する。
|