研究課題/領域番号 |
20K14864
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研究機関 | 八戸工業高等専門学校 |
研究代表者 |
李 善太 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (60771962)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抗生物質耐性大腸菌 / 大腸菌ファージ / 下水処理場 / ファージセラピー / 存在実態 / 薬剤耐性菌 / 制御方法 / ファージ |
研究実績の概要 |
抗生物質の効かない細菌の薬剤耐性菌が世界中で問題になっている中で、薬剤耐性菌に感染するバクテリオファージ(以下、ファージ)を用いたファージセラピーが注目を集めている。しかし、薬剤耐性菌に感染するファージの存在実態についてはほとんど知見がない状況である。そこで本研究では、①下水処理場における薬剤耐性菌に感染するファージの実態調査、②薬剤耐性菌感染ファージを用いた下水処理場での制御手法の検討、③薬剤耐性菌に感染するファージ種の特定を目的とする。様々な薬剤耐性菌に感染するファージを収集して薬剤耐性菌感染ファージのライブラリを作製し、これらから調製したファージカクテルを添加することで、下水処理過程中に薬剤耐性菌の割合を減少させる。また、有効なファージはその種を特定することで、下水処理場だけでなく宿主である薬剤耐性菌が問題になっている、ヒト、動物、農業、食品および環境の各分野においても利用できることが期待される。 本年度は、薬剤耐性菌感染ファージを用いた下水処理場での制御手法として、下水処理場の生物処理過程において抗生物質耐性大腸菌に感染するファージを添加することによる抗生物質耐性大腸菌の除去効果について調査し、下水処理場への適用可能性について基礎的検討を行った。八戸工業高等専門学校の排水処理施設より単離した多剤耐性大腸菌を2種と、青森県B下水処理場より検出したそれらの多剤耐性大腸菌に感染する大腸菌ファージを用いたファージ添加実験および生物処理実験を行った。これにより、ファージを添加することによる多剤耐性大腸菌の除去効果について調査した。また,ファージを添加することによって生物処理機能への影響が懸念されたため、生物処理前後における大腸菌除去率の検討も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
八戸工業高等専門学校の排水処理施設(WWTP A)の流入水と二次処理水、青森県内のB下水処理場(WWTP B)の流入水と二次処理水を対象とし、多剤耐性大腸菌13株を宿主菌として用いてファージの存在実態を調査した。WWTP Aからは多剤耐性大腸菌に感染するファージは検出されなかった。一方、WWTP Bの流入水と二次処理水では13株の多剤耐性大腸菌うち5~6株に感染するファージが検出された。宿主菌を単離した起源が流入水の場合はファージの検出率が50~62.5%、二次処理水は0~25%、放流水は0~25%であった。このことから、流入水で単離した多剤耐性大腸菌の方が下水処理過程を経た後に単離した多剤耐性大腸菌と比べてファージに感染しやすい傾向が示された。 WWTP Aの流入水より単離した4剤の抗生物質に耐性を示す多剤耐性大腸菌A(ID A)と5剤の抗生物質に耐性を示す多剤耐性大腸菌B(ID B)、WWTP Bの流入水からそれぞれ異なる日に単離した多剤耐性大腸菌A、Bにそれぞれ感染するファージ3種を用いて生物処理過程におけるファージを用いた多剤耐性大腸菌の除去についての基礎検討を行った。ファージを添加せずに生物処理を行った結果では、生物処理後から検出された大腸菌の98%(ID A)と 73%(ID B)が添加した多剤耐性大腸菌と同様の抗生物質に耐性を示していた。一方、ファージを添加した結果では、生物処理後から検出された大腸菌の65%(ID A)と 0%(ID B)が添加した多剤耐性大腸菌と同様の抗生物質に耐性を示しており、ファージを添加しなかった場合と比べて割合が大きく低下していた。このことから、生物処理過程 において添加した大腸菌ファージが宿主菌である多剤耐性大腸菌に感染し除去できる可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
起源別(流入水、二次処理水、放流水)に単離した宿主菌(多剤耐性大腸菌)を用いたファージの調査により、流入水で単離した多剤耐性大腸菌の方が下水処理過程を経た後に単離した多剤耐性大腸菌と比べてファージに感染しやすい傾向が示されたことから、より詳細を把握するため、より多くの宿主菌を用いて大腸菌ファージの存在実態を調査していく予定である。また、下水処理場の試料のみならず河川や湖沼などの環境水に対しても同様の調査を継続する計画である。 下水処理場の生物処理過程において抗生物質耐性大腸菌に感染するファージを添加することによる抗生物質耐性大腸菌の除去効果について、2種の多剤耐性大腸菌とその多剤耐性大腸菌に感染する3種のファージを用いて基礎検討を行った。その結果、生物処理過程において添加した大腸菌ファージが宿主菌である多剤耐性大腸菌に感染し除去できる可能性が示されたことから、同様の検討を異なる多剤耐性大腸菌とその多剤耐性大腸菌に感染するファージを用いてさらに検討を進める予定である。また、これまでの調査で検出された多剤耐性大腸菌に感染するファージを全て単離・精製して-80℃での凍結保存を行い、ファージストックを作製済みである。そのため、薬剤耐性大腸菌の除去効果が高かったファージについては、それぞれ単独培養後、次世代シーケンスにより薬剤耐性菌に感染するファージ種の特定を行う。もし、これまで報告されていない新しいファージであった場合は、透過型電子顕微鏡(TEM)による形態学的特徴の観察や次世代シーケンスによる全遺伝子配列解読を実施し、新種の申請と特許の出願も行う計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究課題の遂行に必要な予算執行をした上で次年度使用額が生じた。金額が微少であるため次年度予算と合わせて使用する計画である。
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