研究課題/領域番号 |
20K14868
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
三井 和也 東京工業大学, 環境・社会理工学院, 助教 (60862224)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 塑性変形能力 / 最大耐力 / 矩形断面部材 / Pδモーメント / PΔモーメント / 硬化則 / エネルギー法 |
研究実績の概要 |
近年,建築物に使用される鋼材は高強度化し板厚が薄く,細長くなっている.こうした部材では座屈現象が問題となるため,本研究では座屈現象が問題となる柱部材を対象として局部座屈現象や付加曲げモーメントで決定される部材性能と,地震荷重のような繰返し外力が部材に及ぼす影響を明らかにすることを目的としている.令和2年度である本年は構造実験の準備を進める一方で,有限要素法数値解析により繰返し荷重を受ける部材の鋼材性能の同定作業や弾性座屈耐力と変形能力の比較・検討を行った.以下に今年度の検討内容を記す. 柱の部材性能を決定する要因は板厚や断面幅,材長といった形状的要因に加え,降伏応力度や降伏比といった材料的要因,部材が受ける荷重といった外乱的要因があり,そのすべてを構造実験により検討を行うことは不可能であり,有限要素法による検討は不可欠である.一方で,有限要素法による検討を用いた場合,鋼材の材料特性にその解析結果が大きく依存するため,鋼材の硬化則の設定が重要な要素となる.従来,繰返し荷重を検討する場合,一般的に安全側の指標となる移動硬化則を使用しているが,この硬化則を使用した場合その解析結果と実験結果は大きく異なる.本研究では解析による検討精度を高めるため下負荷面モデルと呼ばれる硬化則を使用した.ただし,下負荷面モデルは材料特性を決定する変数が多いため,その同定作業を繰返し引張試験結果と機械学習を用いて行った.これにより,従来では信用度の低い有限要素法による繰返し荷重を受ける部材の数値解析の予測精度を向上させ,実大実験と同等の結果を得られることが可能となった. なお,令和2年度準備を進めた構造実験については令和3年度に実施予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は難易度の高い材料特性の同定作業を行い,その同定に成功している.この同定結果に基づいた有限要素法数値解析を多数実施し,座屈現象と繰返し外力を把握することができた.また,弾塑性性状を確認するための,載荷実験を計画し,試験体を製作した.この結果を用いてこれまでに検討されてこなかった繰返し外力の影響と構造性能の関係性を明らかにする.さらに,柱端にプレ施工された補剛スチフナによる構造性能の影響を数値解析的な検討ではあるが実施し,その有効性について確認することができた.令和3年度以降では最適なスチフナ位置や形状についても検討を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に準備を進めた繰返し曲げ応力を受ける柱材(角形鋼管部材)を対象とした実験を行う.ただし,これらパラメータは上述のように多岐にわたるため,全ての組合せを実験により検討を行うことは不可能である.そこで,実験では特徴的な挙動を示す試験体を20~25体程度抽出し実験を行うものとし,残りのパラメータについては実験結果とのキャリブレーションを行った,有限要素法弾塑性数値解析により検討を行う.上記の手法に基づき,以下の点を令和3年度では明確にする. ①前述パラメータと最大耐力や変形能力といった構造性能,崩壊形式との関係性の明確化 ②単調載荷実験では発現しえない塑性不安定現象や局部座屈の進展に着目し,その崩壊メカニズムを理論的手法に基づき明確化 ③柱材に累積する変形量の評価と残留変形量から推測される残存耐力の関係性明確化
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度における検討は数値解析で行うものが主体であり,試験体発注は行ったものの構造実験は行わなかった.次年度は,曲げせん断力を受ける実部材の最大耐力と塑性変形能力と繰返し荷重の影響を構造実験で検討し,試験体と計測機器の購入に使用する計画である.
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