研究課題/領域番号 |
20K14871
|
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
小島 紘太郎 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 助教 (10822786)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 不整形立体構造物 / 極限的地震動 / 断層近傍地震動 / 最悪地震動入力方向 / ダブルインパルス / バイリニア+スリップモデル |
研究実績の概要 |
先行の研究では、断層近傍地震動の特徴を再現可能な簡易地震動モデルである「ダブルインパルス」を用いて、線形弾性の不整形立体構造物に入力する地震動エネルギーを最大にする断層近傍地震動(極限的地震動)とその最悪入力方向を評価する方法を提案している。最下層の復元力と減衰力の和の地震動入力方向成分が0になるタイミングがダブルインパルスの極限的タイミングである。しかし、柱や梁の損傷や塑性化などの弾塑性特性を考慮すると、入力エネルギーが最大になる地震動特性やその最悪入力方向は変化すると考えられる。本研究課題では、上記の特性を応用して弾塑性立体骨組モデルの極限的地震動の最悪入力方向の解明を行うことを目的としている。 2020年度は、上記の理論の展開および評価に適切な立体骨組モデルの検証を行うために、初めに、平面骨組モデルを対象としてダブルインパルスの極限的タイミングと極限地震応答の評価を行った。その結果、従来のせん断質点系のモデルと同様に平面骨組モデルにおいても最下層の復元力と減衰力の和が0になるタイミングで入力エネルギーが最大になることを確認した。 さらに、ダブルインパルスを用いた極限的地震応答評価法の妥当性を検証するために、弾塑性1自由度系(木造住宅を模擬したバイリニア+スリップモデル)を対象として、国内の内陸型地震動の断層近傍で観測された28個の地震波形に対する最大変位応答とダブルインパルス応答の比較を行い、極限的ダブルインパルス応答を用いることで実地震動による建物の地震応答の上限値を概ね予測できることを確認した。一方で、極限的ダブルインパルス応答よりも最大地震応答値が大きくなる地震動も見られたので、2021年度には地震動をダブルインパルスでモデル化する手法に関して追加で検討を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は、弾塑性立体骨組を対象に、先行研究の理論を元に極限的地震動の最悪入力方向が地震動レベルの増加に伴ってどのように変化するかそのメカニズムを解明することを目的としていたが、斜め入力による地震応答を適切かつ比較的簡単に評価できる弾塑性立体骨組モデルの検討が順調に進まず、パラメトリック解析やメカニズムの解明に至らなかった。このため、進捗状況は「やや遅れている」と判断した。 一方で、弾塑性1自由度系に対してではあるが、多数の地震動とダブルインパルスに対する建物応答の比較を行うことで、極限的ダブルインパルスにより地震応答の上限値を概ね予測できることを確認した。本検証は、これまでの研究で十分に確認できていなかったことである。ダブルインパルスを用いた簡易応答評価法により実地震動の応答特性を十分に評価可能であることを検証したという点で、本研究課題が大きく進展したと考えられる。また、応答を精度よく予測できないケースについての問題点も明らかになったため、2021年度には当初の計画に加えてダブルインパルスによるモデル化の精度向上に関する研究を行う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究計画は以下の通り進める予定である。 (1) 弾塑性立体骨組モデルを対象に、極限的ダブルインパルスの最悪入力方向評価法を取りまとめ、入力速度振幅の増加に伴って最悪入力方向がどのように変化するかそのメカニズムを解明する。 (2) (1)の評価方法を応用して、不整形建物が塑性崩壊するまでのメカニズムの解明および塑性崩壊時の極限的地震動の地震動強さ評価法を提案する。 (3) 「最悪ケース」を想定した小型立体骨組試験体の載荷実験を行い、実際に塑性ヒンジがどのように発生し、崩壊に至るか検証を行う。 (4) 上記のダブルインパルスに対する理論を長時間地震動を模擬したマルチインパルスにも応用する。マルチインパルスにおいても、「最下層の復元力と減衰力の和のインパルス入力方向成分が0のときがインパルスの極限的タイミングである」ことを有効に用いることが可能であると考えられる。 (5) 2020年度の研究において新たに課題として挙がった地震動のモデル化の問題点に関して改善を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度の研究成果では、弾塑性立体骨組に対する極限的ダブルインパルスの最悪入力方向評価方法に関して、成果発表ができるまで数値解析が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。また、コロナウィルスの影響でシンポジウム等がオンラインで開催されたため、旅費が不要となったことも、次年度使用額が生じた理由である。 2021年度では、様々な形状の立体骨組モデルを対象に理論の導出および数値解析による検証を行う予定であり、またその検証のための小型実験を行うことも予定している。従って、試験体の作成費用および解析・実験補助の人件費に使用する予定である。
|