研究課題/領域番号 |
20K14872
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研究機関 | 秋田県立大学 |
研究代表者 |
大塚 亜希子 秋田県立大学, システム科学技術学部, 助教 (00825101)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非破壊診断 / 劣化調査 / 超音波試験 / 穿孔抵抗 / 文化財建築 / 木造 |
研究実績の概要 |
本研究は,文化財等の伝統木造建築の構造部材を対象とした非破壊劣化診断による伝統木造建築の保存的補強法の確立を念頭に,蟻害や腐朽菌など木材特有の劣化性状を有する伝統的木造実建築に対して,ポータブルな診断機器を用いて超音波試験を中心とした劣化診断フローおよび木材強度推定式について実建築への適用性の検証を行うものである。 当該年度については、2つの重要文化財木造建築に対して,実構造部材の解体時に取り替え対象となった部材より切り出した部材に対する検討を行なった。対象建築は17世紀中旬に建立された寺社建築とし,対象部材は当初材を中心としながら,一部取り替え材と新調対象材も調査対象とした。樹種はアカマツ,ヒノキが多く使用されていた。 検討内容としては,劣化部および健全部について,一次試験(目視),二次試験(超音波伝播速度測定による非破壊試験,穿孔抵抗測定による微破壊試験,含水率測定),三次試験(圧縮試験)を実施し,材料強度推定提案式の精度検証や修正を行った。試験体は, 縦圧縮試験後に乾燥炉(105℃)にて質量が安定するまで乾燥させ、全乾密度の測定,質量含水率の測定を行った。また,材料性能をより正確に把握するために,光学顕微鏡による樹種調査を実施した。 検討結果より,穿孔抵抗値測定については、超音波伝播速度1,400m/s以上の材を対象に穿孔抵抗値を測定した場合,樹種によらず材料強度の推定可能であることを明らかにした。それにより、超音波伝搬速度と併用することで,より精度の高い材料強度推定が可能であると示唆された。一方で,超音波伝播速度測定において,菌糸による劣化が表面に見られる材において、超音波伝播速度と材料強度の相関性が低くなる傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度については、当初の計画に沿って順調に進行している。菌糸による劣化が表面に見られる材において、超音波伝播速度と材料強度の相関性が低くなる傾向が見られたことについては、樹種や劣化の種類による材料強度推定方法の妥当性について再度検討する必要があるため、次年度行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度については、2020年度に引き続き実建築より切り出しを行なった部材に対する検討を行い,材料強度推定提案式の精度検証を行う。同時に、実構造の実地調査による劣化診断方法の検証を始める。また,上記の試験とともに建築の年代・地域など環境・条件別の劣化状況などについてもデータを蓄積する。 さらに,蟻害劣化と判断できる劣化部に対し樹脂充填を実施した試験体に対して同様の試験を行い,超音波診断を用いた実構造部材に対する内部劣化診断→補強→回復状況の確認のフローの確立を目指す。その際に、劣化の種類による材料強度推定方法の妥当性についても検討する。 また、補強方法のうち充填材については,既往研究にて過去の文化財の修復に使われた樹脂の種類と使用方法と使用頻度の収集結果より選択したエポキシ系樹脂,ポリウレタン系による実験結果から,ポリアミン樹脂を配合したエポキシ系樹脂をとし、また充填効果向上に向けた樹脂充填穴のディテールを変数とした実験も計画している。 2023年度は非破壊による劣化探査および補強方法確立に向けたデータベース構築を行う。切り出した実構造物部材および実存する建築に対する調査によって検討結果より,データベースの構築を行い,非・微破壊による内部劣化探査および建物を壊さない補強方法の確立に向けた定量的な評価軸の提案を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020 年度の検討において、菌糸による劣化が表面に見られる材において、超音波伝播速度と材料強度の相関性が低くなる傾向が見られたことについては、樹種や劣化の種類による材料強度推定方法の妥当性について再度検討する必要があるため、2021年度予算と合算して実験を行うため。
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