研究課題/領域番号 |
20K14883
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
崔 元準 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (30817458)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地中熱利用ヒートポンプ / 逆問題 / パラメータ推定 / グローバル感度解析 / 熱物性推定 / 地中熱交換器 |
研究実績の概要 |
実験条件を自由に変更でき、実験中の外乱も機械的に抑制できる土壌熱応答試験装置を開発した。開発した実験装置は、既存のヒーターのみを装着している装置とは異なり、チラーを用いて熱抽出実験もできる。プログラマブルロジックコントローラを利用し、PID制御を行うことで、熱応答試験中の外部環境からの外乱を効果的に抑制できることを確認した。飽和多孔性土壌では、地中の自然体流の影響で地中熱利用ヒートポンプの冷房運転(地中に熱注入)と暖房運転(土壌から熱抽出)の性能が異なることがあるため、このような物理現象を実験的に解明する研究に拡張することも期待できる。 熱応答試験装置の開発を完了した後、パラメータ推定に用いられる熱応答予測モデルの入力パラメータそれぞれがボアホール内部要素の推定結果に及ぼす影響を確率論的に定量化した。グローバル感度解析方法の中で最も正確であると認められているSobol法を使用した。グローバル感度解析の結果は、ボアホール充填材の熱物性推定結果が有する不確実性の30%程度が土壌の初期温度の不確実性に起因するという新しい知見を提供した。この結果は、今まで地中熱ヒートポンプの研究分野では見過ごされていた部分である。 土壌の初期温度は、熱応答試験で熱注入を行う前に、ポンプを利用して熱源水の循環する方法で測定される。しかし、この方法はポンプからの熱伝達によって温度が上昇する傾向があり、長期間の測定では外部環境との熱交換によって非常に不確実性が大きくなる。本研究で開発した新実験装置は、チラーを用いて地中熱交換器の循環水の温度を下げる方向にも調節できるため、漸近的に正確な地中温度を探索できる。土壌初期温度の不確実性は、既存の0.7度から0.1度までに減少でき、ボアホール充填材の熱物性の推定不確かさが24%減少することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
期待した初年度の研究成果は、熱応答試験装置の開発までだった。実験装置の開発完了に加え、パラメータ推定に関するグローバル感度解析の研究成果まで達成した。したがって、当初の計画以上に進展があったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
既存の土壌熱物性の推定に使用される物理モデルは、土壌熱物性の推定には適切であるが、地中熱交換器内部の伝熱現象を適切に考慮できない。したがって、地中熱交換器の短期挙動が再現できる数値モデルあるいは解析的モデルを開発し、ボアホール充填材の詳細推定に活用する予定である。 ボアホール充填材の熱物性推定は、土壌に比べて少ない量のデータを活用せざるを得ないため推定の不確実性が高くなる。ベイズ統計の理論を導入すると、確率論的推定により推定不確実性の評価が可能になるだけでなく、事前分布を適切に定義することにより、比較的少量のデータでより良い推定精度を期待することができる。したがって、本研究では、推定精度の向上と信頼度評価のためにベイズ統計に基づく確率論的な推定法を開発する予定である。
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