自然換気システムはBCP対策やZEB実現を目指す建築において近年積極的に採用されており、自然風の気流感による快適性向上も期待されている。しかし、省エネルギー効果を得るために外気や室内の下限温度を低く設定した結果、低温の気流が換気口に近い居住者への不快感に繋がり、運用停止に至る事例も複数確認されている。これらの課題を踏まえ、本研究では、気流の温度、影響範囲、風速の変化と快適性の関係について明らかにし、自然換気口からの気流が局所的に人体に当たる場合の快適範囲について明らかにすることを目的とした。研究は3年間に渡って実施し、初年度から2年目においては、人工気候室において自然換気時の室内気流環境を再現した複数の低温・局所気流パターンを決定し、サーマルマネキンによる人体熱損失量を測定することによって、気流と人体熱損失量の関係を確認した。更に測定データを元に人体近傍の温度・気流速度により人体熱損失量を求める推定式を提案した。最終年度においては、決定した気流条件に対して、被験者実験による低温・局所気流時の快適性評価を行った。その結果、室温22℃の場合には人体熱損失量から求めた温冷感の申告予測と比較して、被験者実験ではより寒い側の申告結果となる傾向にあり、気流速度・温度に応じて快適域の下限室温が高くなることが明らかとなった。室温24℃以上においては人体熱損失量から求めた予測と被験者の申告は概ね一致する傾向にあり、更に局所気流の効果により快適範囲が室温28℃以上に拡張する場合があることを明らかにした。これらの知見を元に、局所気流発生時の室温快適範囲を示すチャートを作成し、運用や設計に活用可能な資料として整理した。タスク空調への応用についても検討し、室温28℃時のタスク空調の快適性・省エネ性を人工気候室実験にて評価し、エアロゾル感染対策として用いる場合の留意点についても明らかにした。
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