本研究は、アトリウムなどの天井高が高い大空間において、難燃処理等に頼らずに、木質仕上げを防火的に実現する方法の研究である。建築物において上方向の燃え拡がりを抑制するには、一般に庇(ひさし)の設置が有効である。一方、庇の下方には熱気や可燃性ガスが滞留する可能性があり、木質仕上げと組み合わせると、庇の下方において水平方向の燃え拡がりが助長される可能性が考えられた。そこで、庇に前上がりの勾配をつけることで、上方向の燃え拡がり抑制・側方への燃え拡がり抑制を両立することを考案した。 縮尺1/2で壁・庇を再現した模型を製作し、可燃仕上げを施さない状態での庇面の温度計測および可燃仕上げ(木製ルーバー)を施した状態での燃焼実験を実施した。 温度計測実験の結果、庇の下面に30°上向きの勾配をつければ、水平な庇と比べて熱気流の幅が40~50%程度まで抑えられることが分かった。勾配のある天井に関する文献値と比較した結果、庇の場合は傾斜角の影響を天井より強く受けることが明らかとなった。 また、燃焼実験の結果、ルーバーの水平方向への火炎伝播速度は、下面に30°上向きの勾配をつけることで、勾配なしの場合と比較して50%程度まで抑えられることが分かった。 上方向の燃え拡がりを抑制する効果を含めると、本実験で使用したルーバーの場合、下面に30°勾配のある庇を取り付けることで、焼損面積は30%未満に抑制できる試算となる。 このように、無処理の木材による内装仕上げの上方向の延焼防止、側方への延焼防止を両立する新たな構法を例示した。
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