研究課題/領域番号 |
20K14892
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
水谷 悦子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 研究員 (90849796)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 塩類風化 / 組積造 / 脱塩 / イオン輸送 / 電気泳動 / 表面電荷 / 濃度拡散 |
研究実績の概要 |
組積造建造物の塩類風化抑制策としての電気的脱塩手法の開発に向けて、煉瓦単体を対象に電気的脱塩による脱塩効果の検証と、脱塩条件の最適化に向けたイオン輸送メカニズムの解明を目的とする。令和3年度は以下の検討を実施した。 1. 多孔質材料中の塩溶液の移動性状の把握 焼成煉瓦における通電していない状況下の塩溶液の移動性状について実験により検討した。材料中で塩が析出していない状況においても、焼成レンガが有する表面電荷に由来する電気粘性効果に伴い、塩溶液の移動速度が塩溶液の物理的特性から想定されるものより、大幅に低下することが確認された。このことは表面電荷を有する材料では、移流拡散によって生じるイオンの輸送が抑制されることを示唆している。またCT画像の画像解析により、多孔質材料中における塩析出の経時変化と結晶生成に伴う材料の空隙構造の変化の定量化が可能になった。多孔質材料中の溶液輸送の理論式であるKozeny-Carman式に、得られた塩の析出量と空隙構造に関するパラメータを考慮することで、塩の析出量と溶液の輸送速度低下の関係を示した。 2.通電による脱塩効果の検証 通電に伴う脱塩効果を検証するため、NaCl塩溶液を含ませた焼成レンガの脱塩実験を実施した。溶出液の組成については、通電時の陽極側でのpHの低下抑制と作業性の観点から決定した。大気圧条件下で飽和状態になるまで塩溶液を含浸させたレンガを実験装置に設置し、通電させない場合と一定期間通電させた場合で脱塩効果の比較をした。通電をせず濃度拡散のみ生じる場合と比較し、通電し濃度拡散と電気泳動に伴うイオンの移動が生じる場合には脱塩量が大幅に増加することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当該研究の初年度に新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置の発令により、職場への出勤が制限されていた期間があったため、実験および現地調査の実施に遅れが出ている。
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今後の研究の推進方策 |
通電による脱塩の効果の検証と脱塩条件の最適化に向けては、1)組積造建築における水分と塩濃度の分布の現状把握、2)通電条件と脱塩量の関係の整理、3)通電していない状況および通電時に生じるイオン輸送性状の解明が課題である。R4年度は、出張の制限も緩和されたことから、実建築物における調査研究を開始する。 1)組積造建築における水分と塩濃度の現状把握 港湾部の組積造建築において、水分と塩濃度の分布の経時的な測定を行う。塩濃度が含水率の測定結果に影響を及ぼすため、正確な値を求めるためには両者の関係を実験室実験にて整理する必要がある。 2)通電条件と脱塩量の関係の整理 これまでに実施した脱塩実験の結果を踏まえ、通電条件と脱塩効果の関係についてより詳細に検討する。R3年度に実施した実験により、陰極側と陽極側で脱塩後の塩濃度が異なる可能性が示唆されたため、材料内のイオン分布の定量化を含めた検討を行う。 3)通電していない状況および通電時に生じるイオン輸送性状の解明 濃度拡散および電気泳動によるイオンの輸送性状を明らかにする目的で、イオンの拡散実験を実施する。実験結果より、濃度勾配と電気泳動によるイオンの拡散係数をそれぞれ求める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令により、出勤および出張が制限されていたため、実験および現地調査ができない期間があったため。 当初R3年度に予定していた実験の実施を、R4年度に遂行する予定である。
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