研究課題/領域番号 |
20K14896
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 雅智 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 特任助教 (70847095)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 住宅市場 / 住宅選好 / リフォーム・リノベーション / 経年減価 |
研究実績の概要 |
空き家問題が注目される中、利便性や機能の劣る住宅は住宅市場から淘汰されつつあるが、この実態は必ずしも明らかではない。本研究では、不動産流通市場において長期にわたり蓄積されてきたミクロデータを用いて、①潜在需要からみる住宅ストックの陳腐化実態の分析、②建物設備による陳腐化・修繕効果の経済分析、③住宅のライフサイクルの測定に取り組む。本研究を通して、既存住宅ストックと需要の「ミスマッチ」の定義が明らかとなり、社会的対応が必要となる空き家の峻別が可能となる。 分析①は、不動産ポータルサイトにおける、物件の資料請求状況といった物件レベルの指標を用いて、買い手の検討対象にも含まれない住宅の存在を検証するものである。具体的には、資料請求情報という新しい住宅市場データを用いて、首都圏中古住宅市場における需給バランスの把握を試みた。都心からの距離・最寄り駅からの距離といった交通利便性、築年数、延床面積といった観点から、1物件に対する購入検討者ボリュームの定量化を試みた。アンケート調査やヘドニック価格関数の構築といった既存手法では限界があった、売り手に対する潜在的な買い手の比率を明示的に捉えることが可能となった。 分析②は、建物設備の有無や、修繕を通した新機能の挿入による市場価値の変化を明らかにするものである。具体的には、不動産ポータルサイトへの掲載データを用いて、首都圏中古住宅市場において、普及の進んだ建物設備を備えていない住宅で生じる経済的陳腐化の程度や、修繕を通した改善の程度・経年減価への影響を分析した。経年的に普及の進んだ設備を備えていない古い住宅では価格が大きく低下する実態や、古い物件に対する修繕は価格を上昇させる実態が明らかとなった。市場原理では設備を後付けする本質的なリノベーションは一般的ではなく、化粧直しの内装リフォームにとどまるという限界も明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は、①「潜在需要からみる住宅ストックの陳腐化実態の分析」を2020年度に、②「建物設備による陳腐化・修繕効果の経済分析」を2021年度に、実施する予定であった。しかし、分析が相互に深まることから、①②の分析を並行して開始することとした。どちらの分析も、一定の成果を出すことができ、和文論文として公刊することができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には、①②の分析について、2020年度にはあまり実施できなかった研究報告の機会を通じて分析を深め、特に英語論文としての公刊を目指し、論文執筆・投稿を進めていく。また、2021年度から2022年度にかけて、当初の計画に追加する形で、「長期優良住宅等の認定が住宅の経年減価曲線に及ぼす影響の分析」といった、①②の関連で新たな分析を設定する予定である。2022年度には、総括として③「住宅のライフサイクルの測定」にも取り組む予定である。随時、得られた結果を取りまとめ、研究報告・論文投稿を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、COVID-19の感染拡大に伴い学会・研究集会等が中止またはオンライン化されたことで旅費の支出が不要となったことや、研究の実施順序を変更したことにより、次年度使用額が生じた。 次年度には、本年度に進めた分析について、研究報告の機会を通じて分析を深め、特に英語論文としての公刊を目指し、論文執筆・投稿を進めていく。次年度は、これらの旅費や、論文投稿・英文校正に係る費用などに助成金を使用することを予定している。
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