研究課題
空き家問題が注目される中、利便性や機能の劣る住宅は住宅市場から淘汰されつつあるが、この実態は必ずしも明らかではない。本研究では、不動産流通市場において長期にわたり蓄積されてきたミクロデータを用いて、①潜在需要からみる住宅ストックの陳腐化実態の分析、②建物設備による陳腐化・修繕効果の経済分析、③住宅のライフサイクルの測定に取り組む。本研究を通して、既存住宅ストックと需要の「ミスマッチ」の定義が明らかとなり、社会的対応が必要となる空き家の峻別が可能となる。2023年度は、分析②について、2021年度より投稿していた英語論文の改訂に取り組み、国際誌に採択された。この分析では、東京圏の既存マンション売買に関するデータセットを用い、建物設備やリフォーム状況に関する詳細情報をもとに、住宅設備の陳腐化と過少な水準にとどまるリフォーム・リノベーションによって、日本のマンションの価値が築年数の経過にしたがって急速に減価することを明らかにしている。築20年以上のマンションは現代的な設備が不十分な傾向があり、経済的陳腐化が著しいといえ、築年数の経過したマンションでは、現代的な設備を持たないことによる価格下落率が大きくなる。また、古いマンションに現代的な設備を追加するような本質的なリノベーションによって、減価を遅らせることができるが、実際にそのようなリノベーションが行われるのは半数程度にとどまる。これらの結果は、適切なリノベーションによって住宅の経済的な寿命の長期化を図ることができる可能性を示唆する一方で、新築住宅を建設することで現代的な住宅設備を提供できているという評価もできることを示すものである。
2: おおむね順調に進展している
2023年度は、分析②について、2021年度より投稿していた英語論文の改訂に取り組み、国際誌に査読付き論文として掲載された。2023年度をもって、これまでに取り組んだ分析内容について、一通り査読付き論文として研究成果を公表することができた。以上より、「おおむね順調に進展している」と判断できる。
2023年度には、これまで個別研究課題を進めることに注力したため十分に取り組めていなかった総括を進めていく。査読付き論文として掲載された分析について学術誌への解説の執筆を予定している。その上で、既存住宅ストックと需要の「ミスマッチ」をふまえ、社会的対応が必要となる空き家の峻別や、望ましい住宅寿命やそれを実現する修繕計画について、各分析結果をもとにとりまとめを行う。
これまで新型コロナウイルス感染拡大が継続しており学会発表等の機会が不足していたことから、論文投稿・掲載までに時間がかかり、次年度使用額が生じた。2023年度にはこれまでに進めた分析についてとりまとめを行うため、PC関連の消耗品等として残額の使用を予定している。
すべて 2024 2023
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Journal of the Japanese and International Economies
巻: 71 ページ: 101306
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In: Asami, Y., Sadahiro, Y., Yamada, I., Hino, K. (eds) Studies in Housing and Urban Analysis in Japan. New Frontiers in Regional Science: Asian Perspectives, vol 75. Springer, Singapore.
巻: - ページ: 3-20
10.1007/978-981-99-8027-7_1
International Journal of Housing Markets and Analysis
巻: forthcoming ページ: -
10.1108/IJHMA-03-2023-0037
季刊住宅土地経済
巻: 129 ページ: 27-35